eスポーツを「文化」から「産業」へ。ZETA DIVISION×バンタンが仕掛ける、次世代の人材育成と「土台」作りの勝算
「ゲームは娯楽であり、遊ぶもの」――
そんなかつての常識は、今や過去のものになりつつあります。
現在、コンピューターゲームを“競技”として捉える「eスポーツ」は、世界中で熱狂を生む巨大なスポーツビジネスへと変貌を遂げました。国内でも、プロ野球やJリーグのように特定のチームとプロ契約を結び、競技に専念することで生活を立てる「プロプレイヤー」という職業が一つの地位を築いています。
しかし、その華やかな表舞台を支えるための土台は、果たして十分に整っているのでしょうか。
2026年3月19日、東京都港区で行われた『ZETA DIVISION GAMING ACADEMY POWERED BY VANTAN』の開校発表会から、この新産業が直面している課題と、未来への設計図が見えてきました。
市場拡大の裏で深刻化する「作り手」の不足
日本国内のeスポーツ市場は、今まさに拡大傾向にあります。

2025年時点で市場規模は約200億円に達し、ファン数は1,000万人規模に拡大すると予測が示すように、世界的観点から見ても、日本は「ゲーム大国」から「eスポーツ大国」として存在感を高めている状況にあります。
しかし、こうした産業の急拡大により進化の途上にある一方で、運営やマネジメントといった「裏方」の供給が追いついていないのが実情ともいえます。

「プレイヤーを輝かせるための制作側が、圧倒的に足りていない」
日本のeスポーツ界を牽引するGANYMEDE株式会社(以下、GANYMEDE)の西原大輔代表は、現状をそう指摘しました。 特に、競技の特性や熱量を深く理解した上で、価値ある映像に落とし込める編集者や演出家の確保が、業界全体の大きな課題となっています。

この「人材の空白」を埋めるべく立ち上がったのが『ZETA DIVISION GAMING ACADEMY POWERED BY VANTAN』です。
同校は、GANYMEDEが運営するプロチーム「ZETA DIVISION」の実践的な知見と、長年専門教育を担ってきた「株式会社バンタン(以下、バンタン)」のノウハウを掛け合わせた新事業。2027年4月、東京・大阪・名古屋の3拠点で同時に開校予定です。
競技の第一人者が説く「人間性」と「振る舞い」

次にマイクを握ったのは、ZETA DIVISIONでクリエイターを務めるcrow氏。
eスポーツ黎明期からプロの荒波に揉まれ、現在はコンテンツクリエイターとしてシーンを支えるcrow氏が語ったのは、「一過性のブームで終わらせないための、生き残る条件」でした。
crow氏が強調したのは、プレイヤー同士とそれを支えるスタッフたちが一丸となり競う競技における「人間性」や「社会性」の重み。応援してもらえる人間であることはもちろん、複雑な人間関係の中で円滑に意思疎通を図る力が不可欠であると説きました。
「勝ちにこだわると周りが見えなくなることもあるが、そことうまく向き合える力が求められる」実力が同等であれば、前向きな姿勢を持ち、周囲と協力できる人物が選ばれる。そんなプロの現場の現実を、自身の経験を交えて静かに、しかし力強く説明しました。

発表会には入学を検討する若者たちも参加しており、質疑応答では現場の厳しさを物語るやり取りも見られました。
「プロになるために一番大切なことは何か」という問いに対し、西原氏は「努力を重ねて取り組む姿勢」を改めて強調。かつて自身も、6年前に小さなワンルームから活動を始めた苦労を振り返りながら、華やかな表舞台の裏にある地道な積み重ねの重要性を力説しました。
また続けてcrow氏も、技術以外の部分でいかに信頼を築くかという「応援される力」の大切さを提言。参加した若者たちは、真剣な面持ちでふたりのリアルな回答に耳を傾けていました。
「腕前」至上主義からの脱却
西原氏は、これからの業界に必要な素養についてさらに踏み込みます。「書類上の数値やゲームの点数だけでは測れない部分、つまり『共に働きたいと思わせる人間味』こそが求められている」と語り、技能のみを重視しがちだったこれまでの風潮に一石を投じました。

特に「実力が拮抗する場面では、周囲に良い影響を与える人物かどうかが“チームへの評価”を分ける大きな判断材料になる」と指摘。これは一般の就職活動と同様に、最終的にはその人の「人となり」が問われるという、健全な組織のあり方を示唆したといえるでしょう。
また、西原氏は仕事に対する姿勢の本質について「自分の好きな分野において、やりたくないことや、面倒だと感じる仕事まで含めて向き合えるかどうかが本質である」と言及。eスポーツを単なる遊びではなく、地に足のついた事業として根付かせる意欲を示しました。
業界を「誰もが胸を張って稼げる場」にするためには、こうした姿勢を持つ専門家の育成が、欠かせない土台となるはずです。
現場の「理想」を「仕組み」に変える
こうした西原氏やcrow氏の掲げる「人間味」や「応援される力」を、実際の教育としてどう具体化していくのか。GANYMEDEの執行役員・千葉哲郎氏は、eスポーツ産業の急速な拡大に伴う「裏方人材」の圧倒的な不足を指摘します。

「eスポーツは非常に専門性が高く、タイトルごとの知識や配信技術など、現場特有のノウハウが必要。しかし、それを体系的に教える仕組みがまだ不十分です」

この課題に対し、新校ではZETA DIVISIONが培ってきた競技実績やマーケティングの知見をカリキュラムに凝縮。現場の第一線で活動するスタッフが直接指導にあたり、実際のイベント現場での実習や、スポンサー開拓をシミュレーションするプロジェクトなど、徹底した「実践主義」を打ち出します。

同教育課程は、10代から成人までを対象とした3部制(高等部・専門部・大学部)で構成され、ZETA DIVISIONがすべての教育内容を監修します。現場の第一線で活動するスタッフが直接指導にあたり、実践的な経験を通じて、即戦力を世に送り出す仕組みを整えています。
2027年に本格始動するこの試みは、日本のeスポーツ教育における一つの転換点となるでしょう。
次世代を育む「土壌」の構築へ

eスポーツが「一部の才能ある若者のもの」から、社会性を備えた人材が支える「公の産業」へと変化を遂げるプロセス。
そこには「ゲームを文化にする」という目標に向け、次世代を育むための土壌が形成されつつあります。
<取材・撮影・文/櫻井れき>