家という「舞台」の先に、20年後のありがとうを描く。「人間教育」の真髄 東海住宅株式会社 取締役 常務執行役員 中村彰良

不動産仲介という仕事において、真の「成果」とは何か。売上数字か、契約数か、あるいは顧客満足度か。 東海住宅株式会社で常務執行役員を務める中村さんは、その問いに対して一切の迷いなくこう答える。

「20年後に、お客さまから『ありがとう』と言っていただけること。それがすべてです」

バブル崩壊という激動の時代から、常に現場の最前線で「教育」と向き合ってきた中村さん。営業テクニックを超えた、人生の本質を突くその哲学に迫った。

バブル崩壊どん底での「教育」との出会い

私が東海住宅に入社したのは、平成3年(1991年)のことでした。当時はまさにバブル崩壊の直後。華やかな時代は終わりを告げ、不動産業界全体が未曾有の危機に直面していました。入社早々、目の前にあるのは「このままでは会社が立ち行かなくなる」という厳しい現実だけ。その危機感から、私は営業3年目にして自ら研修の場に立ちました。

最初は必死でした。「どうすれば売れるのか」「どうすれば売上を上げて会社を救えるのか」。当時は塾の講師をしていた経験もあり、論理的に教えれば結果は付いてくると考えていたんです。だから、研修の内容も「応酬話法」などのテクニカルなスキルが中心でした。「こう言われたら、こう切り返せ」という、いわば武器の使い方です。

しかし、やっていくうちに大きな壁にぶつかりました。スキルを教えても、現場でお客さまの心を動かすことができない。知識としては知っていても、血肉になっていない。そこで気づいたのです。小手先の技術よりも前に、「この仕事は何のためにあるのか」「この仕事を通じてお客さまに何を提供しているのか」という、根底にある「人格」や「心構え」を磨かなければ、何も始まらないのだと。

そこから私の、30年以上にわたる「東海住宅の教育」という名の探求が始まりました。

教育とは、あなたの中に眠る能力を引き出すこと

よく「教育とは何か」と聞かれますが、私はこう考えています。何かを実現したい、こうなりたいという能力は、実は誰もが既に自分の中に持っているものです。ただ、自分一人ではそれをどう引き出し、どう使えばいいのかが分からない状態にある。その潜在的な能力を使えるようにしてあげることこそが、教育の役割です。

研修に出たばかりの頃は「この人は大丈夫かな」と周囲が心配するような人でも、ある時を境に爆発的に成果を上げることがあります。逆に、自信満々だった人が伸び悩むこともある。その違いはどこにあるのか。

それは「体験と経験の捉え方」にあります。仕事をする中で、必ず壁にぶつかります。その時に「あいつのせいだ」「環境が悪い」と他人のせいにしているうちは、成長は望めません。うまくいかない原因が自分以外にあるため、自分を変化させる必要を感じられないからです。しかし、「この出来事にはどんな意味があるのか」と自分に問い続け、失敗すらも自らの栄養にしようとする人は、ある時ふっと「腹に落ちる」瞬間がくる。

教育とは、脳のシナプスを太くしていく作業に似ています。一度聞いただけで「知っている」状態になっても、機械ではない人間はすぐには動けません。何度も、何度も繰り返し、行動し、考え、染み込ませる。時間がかかるのは当たり前です。その「変わるための環境」を整え、粘り強く伴走するのが、私の、そして会社の使命だと思っています。

スペックを売るな。20年後の「家族の物語」を語れ

新人研修で「いい物件とは何か?」と聞くと、決まって「日当たりが良い」「駅から近い」「設備が新しい」といったスペックが返ってきます。もちろん、それは間違いではありません。しかし、それはプロとして知っていて当然の「最低限」の知識に過ぎないんです。

私は営業時代に担当したお客さまから、20年経って売却の相談をいただくことがよくあります。その時、お客さまはこうおっしゃるんです。 「中村さん、あの時紹介してくれたこの家で、息子が無事に就職したよ」 「おかげさまで定年までこの家で幸せに過ごせました。ありがとう」

20年後の「ありがとう」の理由は、キッチンの広さでも駅からの距離でもありません。その家という舞台で、家族がどう育ち、どう生きたか。語られるのはすべて「家族の物語」なんです。

だとしたら、私たちの仕事は何でしょうか。それは、お客さまと一緒に「未来の風景」を描くことです。 「この玄関からお父さんが帰ってきたとき、お子さんはどこで宿題をしていますか?」 「キッチンからその顔は見えますか?その時どう感じますか?」 物件のメリットを並べるのではなく、その家での暮らしを想像し、共に喜びを感じられるか。スペックはそのための手段でしかありません。

そこまで踏み込んでお客さまの幸せを想像し、提案できる不動産営業こそが、本当のプロです。物件を成約させたいという私欲を捨て、この家族が幸せになると信じているから、背中を押す。その愛情が生まれたときに、目は輝き、言葉に熱が宿ります。お客さまは、スペックではなく、その「熱」を信頼して決断されるのです。

「縁」を繋ぎ、迷う背中を正しく押す

今では新人研修で、定番となっている「線路際の家」のエピソードがあります。線路のすぐ脇に建ち、踏切の音が響き、電車の振動がある物件。客観的なスペックで見れば「悪い物件」に分類されるかもしれません。しかし、そこには現に幸せに暮らす多くの家族がいます。そして線路際の家で育った、たくさんの子どもたちがいます。

「線路際で育った子どもは、大人になってもその音を懐かしく、心地よく感じる。人にはそれぞれの価値観があり、歩んできた環境があります。家との出会いは、人と人との出会いと同じ『縁』なのです。私たち営業個人の価値観や偏見で物件をジャッジしてはいけない。一軒一軒、真剣に向き合って紹介し、お客さまに気づかせてあげることが大切です」

この「誇りと使命感」こそが、私が若手に最も伝えたいテーマです。不動産業界には、どこか「お客さまに無理やり売らなければならない」という罪悪感を抱える営業職の方も少なくありません。しかし、私はそれを真っ向から否定します。

自分たちの仕事は、誰かの人生の舞台を整える素晴らしい仕事。子どもに胸を張って「パパはこんなにいい仕事をしているんだよ」と言える仕事をしよう。そう伝えています。ノルマのために売るのではなく、20年後の「ありがとう」のために、今、目の前の方の背中を正しく押す。その使命感があれば、営業としての立ち振る舞いも自ずと凛としたものに変わります。

AIには真似できない「人間性」という唯一無二の武器

今はAIが進化し、効率化が叫ばれる時代です。もちろん、東海住宅も新しい技術は最大限に活用します。しかし、目的は効率化そのものではありません。AIを活用し深く多面的な調査を素早く行う、そして浮いた時間を、さらにお客さまのために使う。物件情報を調べるだけでなく、その先にある「このお客さまなら何を喜んでくれるか」という思索に時間を使うためです。

かつてのトップセールスは、お子さんがサッカー好きだと聞けば、その地域の小学校のサッカー部のレベルや、練習場の環境まで徹底的に調べ上げました。「サッカーがお好きだと伺ったので」と、その資料を差し出す。その行動の裏にあるのは、「この人の役に立ちたい」という圧倒的な興味と愛情です。

人の持つ愛情だけは、どれほどAIが進化したとしても真似できません。お客さまは「この人は本当に自分たちのことを考えてくれている」と感じたとき、心を開き、信頼を寄せてくれます。その「人間臭さ」こそが、私たちが守り続け、磨き続けるべき東海住宅の文化なんです。

100年企業への道――それは、役に立ち続けること

会社が存続する理由はたった一つです。地域の人たちから「役に立つ会社」と思われ続けること。ただそれだけです。

100周年を迎えたいのであれば、100年間、常に「東海住宅がいてくれて良かった」と思われなければなりません。景気が良い時に儲けるのは簡単です。しかし、不況のどん底で、不安が蔓延している時にこそ「あそこに相談すれば大丈夫だ」と指名される。その信頼の積み重ねが、歴史を創ります。

私は、社員の成長を見るのが何よりの喜びです。最初は頼りなかった新人が、壁にぶつかり、悩み、それでも逃げずに「お客さまのために」と立ち向かい、信頼される立派なプロに成長していく。その姿は、わが社の最高の財産です。この仕事は責任が大きく、時に泥臭く、厳しいものです。しかし、20年後に目に涙を浮かべて、しみじみ「ありがとう」と言われる瞬間の震えるような感動は、他のどんな仕事でも味わえません。

「私たちは家という箱を売っているのではありません。そこから始まる、何十年もの家族の歴史を共に描いているのです。その誇りを胸に、これからも一歩ずつ進んでいきます」

そう語る中村さんの眼差しは、20年先、そして100年先の未来をしっかりと捉えていた。 20年後の「ありがとう」を本気で願う集団としての誇り。その一本の筋が通っている限り、どれほど時代が変わろうとも、東海住宅はお客さまの人生に寄り添う役割を担い続けるだろう。

中村 彰良(なかむら あきよし)
東海住宅株式会社 取締役 常務執行役員

平成3年(1991年)バブル崩壊直後の激動期に東海住宅株式会社へ入社。 営業職として第一線で活躍する傍ら、入社3年目より社員教育の重要性を唱え、自ら研修プログラムの立ち上げに携わる。塾講師の経験を活かした「知る」を「できる」に変える独自の指導法は、同社の教育文化の礎となった。

その後、支店長を経て、2022年4月より常務執行役員、2025年4月より取締役常務執行役員に就任。営業企画、人材育成、戦略策定など営業本部全般の指揮を執る。「20年後のありがとう」という経営理念を体現する組織づくりのリーダーとして、次世代のプロフェッショナル育成に心血を注いでいる。