「コロナは呼吸器性の疾患でなく血液に乗って全身を巡る」 現場の医師が警鐘を鳴らす“本当の怖さ”と、いま早期治療が必要な理由

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行し、社会はかつての日常を取り戻しつつある。しかし、医療現場からは「コロナは決して終わっていない」という声が根強い。特に重要なのが、発症後早期の対応だ。

関先生は「早めに治療を始めるかどうかで、その後のリスクは大きく変わる」と断言する。なぜ今、改めて「早期治療」が重要視されるのか。現場で患者と向き合い続ける関先生に話を聞いた。

関 雅文 氏
埼玉医科大学 医学部・国際医療センター 感染症科・感染制御科 教授

長崎大学医学部を1994年に卒業し、米国University of NebraskaやUniversity of Michiganでの研究生活を経て感染症診療分野でのキャリアを積んだ。
これまで大阪大学のほか東北医科薬科大学で臨床にあたり、2022年より現職。感染症診療・感染対策の教育と研究、院内感染防止の推進に尽力している。
日本感染症学会専門医・指導医でもある。

なぜ「早期治療」が大切なのか

——早期治療のメリットを教えてください。重症化のほかに、後遺症などのリスクも回避できる可能性はあるのでしょうか。

関先生:
まず理解していただきたいのは、この病気が「普通の呼吸器性ウイルス」とは決定的に違うという点なんです。

インフルエンザなどは肺の気道を中心に炎症が広がりますが、新型コロナは、まず血液に乗って全身を巡るという特徴があります。私が当初CT画像を見て驚いたのは、肺の末梢に「マリモ」のような丸い影ができていたことでした。これは呼吸器疾患というより、血流に乗って全身に回る細菌感染症(菌血症)などに近い所見だったんです。

つまり、ウイルスが全身を巡っている間に、血管がボロボロにされてしまう病気なんですね。だからこそ、肺が真っ白になる前、その前段階で何とか食い止めるかどうかが予後を左右すると思います。

早期に治療介入するメリットは、単に肺炎の重症化を防ぐだけではありません。血管がダメージを受けることで生じる血栓、あるいは心筋梗塞や脳梗塞といった全身の血管トラブルを防ぐ意味でも、早い段階でウイルスの増殖を抑えることは極めて重要です。

後遺症に関しても同様ですね。ウイルスが体の中で長く暴れ、血管や神経を傷つける状況を作らないことが、結果として後遺症のリスク軽減につながると考えていいでしょう。早期治療は理にかなっているんです。

特に注意が必要な人は?

——どんな人が特に注意が必要ですか? 重症化リスクの高い人以外も早期治療は必須でしょうか。また、その理由も教えてください。

関先生:
まず間違いなく注意が必要なのは、高齢者と基礎疾患を持っている方ですね。

では、若い人は大丈夫かというと、必ずしもそうではありません。実際に診察していると、若い方でもCTを撮ると肺に不思議な影ができていることがあるんです。しかし本人はケロッとしていて気づいていないケースも多いんですよ。

怖いのは、「症状が軽い=体の中で何も起きていない」わけではないという点なんです。先ほど申し上げた通り、このウイルス感染症では肺の症状が出る前に、すでに血管レベルではダメージが始まっている可能性があります。

もちろん、若い方や軽症の方は自然治癒することも多いですが、後遺症のリスクや、家庭内での感染拡大(ウイルス排出期間の長期化)を考えると、リスクが低いからといって治療しなくていいとは言い切れません。ご自身の体調や環境(高齢者と同居しているなど)を考慮し、医師と相談の上で早期治療を検討する意義は十分にあると思います。

65歳以上の方、糖尿病・心臓病・腎臓病などの持病がある方、ステロイドなど免疫抑制薬を使用している方、肥満の方も注意が必要だそう。

コロナの抗ウイルス薬の劇的な効果

——コロナの抗ウイルス薬を使用する人が、対症療法よりも効果があると考えてよいのでしょうか。だいたい何種類ありますか?

関先生:
これははっきりと「効果がある」と言えると思います。

解熱剤や咳止めといった対症療法は、あくまで症状を和らげるだけですが、抗ウイルス薬は原因であるウイルスそのものを叩く薬なんですね。特にこの病気の場合、ウイルス量が増えている発症早期に叩けるかどうかが鍵になります。

現在、日本で使用できる主な抗ウイルス薬(内服)は、「パキロビッドパック」「ラゲブリオ」「ゾコーバ」の3種類です。これらはパンデミックの最中に開発・導入されたものですが、インフルエンザ薬と比較しても、劇的に効くという印象を現場で持っています。

ただし、これらの薬には「発症から原則5日以内」に飲み始めなければならないというタイムリミットがあります。また、飲み合わせの悪い薬(併用禁忌)が多い種類もあるため、持病の薬がある方は医師への申告が必須です。

点滴薬や中和抗体薬なども含め、武器は揃っています。これらを適切なタイミングで使うことが、救命率や後遺症抑制に直結するんです。

日本でコロナの抗ウイルス薬が普及しない「本当の理由」

——抗ウイルス薬は、あまり普及していないように思えますが、その理由はなぜだとお考えですか?

関先生:
一番大きな要因は、日本が世界に先駆けて「もうコロナは大したことない」という空気に切り替わり、公費助成をやめてしまったことにあると思います。抗ウイルス薬やワクチンは本来非常に高価なものですから、自己負担金が発生するとなると、どうしても「高いから飲まなくていいか」という心理が働くんですね。

実は、海外の専門家と話をすると驚かれることがあるんです。「日本は公費助成をやめてしまったのか? ワクチンも年1回?」と。欧米などの主要国では、今でも高齢者やリスク層に対しては年2回のワクチン接種が推奨されていますし、抗ウイルス薬も一定の助成があることが多く、積極的に使われています。なぜなら、ウイルスは今でも年2回くらい、つまり約半年に1回のペースで大きな変異を繰り返しており、そのたびにリスクが生じるからです。

日本だけが経済的な理由でブレーキを踏んでしまった印象は否めません。現在でも、インフルエンザの10倍以上の数の方がコロナで亡くなっている現実があります。「高いから」という理由で、効くと分かっている薬が使われず、結果として重症化したり後遺症に苦しんだりするのは、現場の医師としては非常にもったいないと感じますし、忸怩たる思いがあるんです。

本来、感染症治療の鉄則は「原因微生物を除去すること」です。インフルエンザでも抗ウイルス薬を飲むのが当たり前になったように、命に関わる可能性があり、かつ特効薬があるのなら、それを早期に使って、原因微生物を除去すべきだという認識がもっと広まってほしいと思います。

迷ったら“すぐ相談”を

——重症化リスクが高い方の感染が発覚した場合、本人・家族はどのような行動をするとよいでしょうか。

関先生:
「様子を見る」という判断は、できるだけ避けたほうがいいと思います。この病気は、悪くなる時は一気に悪くなります。肺が真っ白(ホワイトアウト)になるような状態や、血栓による急変は、時間の経過とともにリスクが高まるんです。「もう少し熱が続いたら」「明日まで待とう」というその時間が、後から振り返ると命取りになることがあるんですよ。

特に高齢者や基礎疾患のある方の場合、ご家族のサポートが重要になります。本人が「大したことない」と言っても、背中を押して医療機関へ連れて行ってあげてほしいですね。早期診断・早期治療ができれば、我々はかなりの確率で患者さんを救えるようになっています。後遺症を残さないためにも、そして何より命を守るためにも、「コロナは全身の血管の病気だ」という意識を持って、迷わず早めに医療機関に相談してください。

「インフルエンザは単刀直入に攻めてくる侍だが、コロナは城の中にこっそり入り込み、気づいた時には手遅れにさせる忍者のようなウイルスだ」と関先生は例える。見かけ上の症状が軽くても、体内で静かに進行するダメージを侮ってはならない。5類移行後もウイルスの性質が変わったわけではない。私たちにできる最大の防御は、正しい知識を持ち、感染が疑われたら一刻も早く医療のプロに頼ることだ。その初動が、あなたと大切な人の未来を守ることにつながる。

記事引用元:新型コロナ5年の検証と未来への処方箋 「パンデミック・ノート」
https://pandemic-note.com/