国立乗鞍青少年交流の家が届ける「体験の風」防災を日常にする取り組み
地震や豪雨のニュースを目にするたびに、「備えなきゃ」と思うことはあっても、実際に行動に移せている人はどれくらいいるでしょうか。非常食や防災グッズをそろえることは大切だと分かっていても、どこかで“まだ大丈夫”と思ってしまう。そんな私たちの日常の延長線に、やさしく問いかける取り組みが岐阜県各務原市で動き出しています。
5月に予定されている「いつものもしもCARAVAN 各務原」は、子どもから大人までが楽しみながら防災を学べる地域イベントです。ただの防災訓練ではありません。企業や行政、市民団体が垣根を越えて集まり、体験を通して“もしも”を自分ごとにしていく2日間です。
その背景には、子どもたちの体験活動を大切にしてきた国立乗鞍青少年交流の家の存在があります。防災と体験、そして地域のつながり。その交差点にある想いを、ひもといていきます。
地域とつながる防災イベント「いつものもしもCARAVAN 各務原」とは

各務原市で5月に開催予定の「いつものもしもCARAVAN 各務原」は、防災をテーマにしながらも、どこか肩の力が抜けた雰囲気を感じさせるイベントです。会場となるのは、新緑が心地よい各務原市民公園を中心としたエリア。福祉センターや勤労会館も活用し、2日間にわたって開催されます。
特徴的なのは、防災を“学ぶ”というよりも、“体験する”ことを大切にしている点です。行政による防災ブースに加え、企業や市民団体によるさまざまな出展が予定されています。災害時の炊飯体験のように、実際に手を動かしながら理解を深めるプログラムも用意されています。知識として知っていることと、自分で体験してみることのあいだには、想像以上の差があります。その差を埋めることが、このイベントのひとつの役割なのかもしれません。
また、この取り組みは今回が初めてではありません。各務原では2022年から開催されてきた積み重ねがあり、今年で5回目を迎えます。単発の催しではなく、地域の中で少しずつ根を張ってきた活動だということが分かります。継続してきたからこそ、企業や行政、団体同士の連携も深まり、毎年かたちを変えながら育ってきたのでしょう。
1月には関係者によるミーティングも行われました。県内のさまざまな場所で活動する団体が集まり、イベント内容やスケジュールを共有し、顔を合わせる場となったそうです。普段は交わることの少ない組織同士が、「防災」という共通のテーマのもとにつながる。その場から、新しいアイデアや連携が生まれていく可能性も感じられます。
防災は、誰か一人が頑張れば成り立つものではありません。家庭、学校、企業、行政といったさまざまな立場の人たちが、少しずつ意識を持ち寄ることで、はじめて地域全体の力になります。「いつものもしもCARAVAN 各務原」は、まさにその“持ち寄り”の場なのだと思います。
大きな災害が起きたときだけ注目されるのではなく、何もない日常のなかでこそ、防災について話せる空気をつくること。公園で家族と過ごす時間の延長に、防災のきっかけがあること。そのやわらかなアプローチこそが、このイベントのいちばんの魅力なのかもしれません。
なぜ今「体験」なのか 防災と子どもの成長をつなぐ視点

「防災」と聞くと、ハザードマップや非常持ち出し袋、避難経路の確認といった言葉が思い浮かびます。どれも大切な備えですが、頭で理解しているだけでは、いざというときに動けないこともあります。だからこそ、「体験」が持つ力にあらためて目を向ける必要があるのではないでしょうか。
今回のイベントでも予定されている災害時の炊飯体験は、その象徴のような取り組みです。非常時を想定しながら実際にご飯を炊いてみる。火を扱い、水を量り、役割を分担しながら一つの食事をつくる。その一連の流れは、単なる“知識の確認”ではありません。身体を使い、五感を通して覚えることで、もしもの場面でも思い出せる力になります。
こうした体験を大切にしている背景には、「体験の風をおこそう」という運動の考え方があります。子どもたちに自然体験や生活体験、社会体験の機会を届けることを目的とした取り組みで、岐阜県内でもさまざまな団体が連携しながら活動を広げています。自然の中で過ごす時間や、人と協力して何かを成し遂げる経験は、教科書の中だけでは得られない学びをもたらします。
防災もまた、その延長線上にあるのかもしれません。非常時に必要なのは、正しい情報だけでなく、周囲と助け合う力や状況を判断する力です。それらは一朝一夕で身につくものではなく、小さな体験の積み重ねから育まれていきます。
現代は便利さが増し、多くのことが画面の中で完結する時代です。だからこそ、実際に手を動かし、人と顔を合わせ、同じ空間で何かを共有する体験は、以前にも増して価値を持っています。防災をテーマにしながらも、このイベントが目指しているのは、単なる備えの啓発だけではなく、子どもたちの“生きる力”を育てる場づくりなのではないでしょうか。
地域の公園で行われる一つのイベントが、未来の地域を支える人材の土台づくりにもつながっていく。その可能性を感じさせるのが、「体験」というキーワードです。
地域をつなぐハブとして 国立乗鞍青少年交流の家の役割

「いつものもしもCARAVAN 各務原」の背景にある「体験の風をおこそう」運動。その事務局を担っているのが、岐阜県高山市にある国立乗鞍青少年交流の家です。
青少年の体験活動を支える国立施設として、自然体験や集団生活、地域との交流を通じた学びの場を提供してきた同施設は、単に“場所を貸す施設”ではありません。子どもたちの成長にとって何が必要かを考え続け、その機会を地域とともに広げていく役割を担っています。
今回の取り組みでも、県内の自治体や民間企業、NPO法人などさまざまな団体と連携しながら、体験活動を広げるための調整や企画の支援を行っています。普段は別々のフィールドで活動している組織をつなぎ、「体験」という共通テーマのもとにネットワークを築いていく。その中心にいるのが、国立乗鞍青少年交流の家です。
防災イベントの一つに見える取り組みも、視点を少し引いてみると、地域全体の体験機会を底上げする活動の一環であることが分かります。災害時の炊飯体験も、企業による防災ブースも、子どもや家族が参加しやすい空間づくりも、すべては「体験を通じた学び」へとつながっています。
こうした活動は、派手さはないかもしれません。しかし、日常のなかにそっと入り込み、子どもたちの成長を支え続ける存在です。防災という切り口を通して、地域と人をゆるやかにつなぐ。その裏側には、長年にわたり体験活動を支えてきた国立施設の積み重ねがあります。
イベント当日だけでなく、その準備段階から地域の団体が顔を合わせ、新たな交流が生まれていることも印象的です。体験の場は、子どもたちだけのものではありません。大人同士のつながりもまた、新しい価値を生み出していきます。
国立乗鞍青少年交流の家が担っているのは、単なる事務局業務ではなく、「体験の風」を県内に送り出すエンジンのような役割なのかもしれません。目に見えにくいながらも、地域を動かしている存在。その視点でこのイベントを捉えると、また違った景色が見えてきます。
新緑の公園で “いつものもしも” を考える2日間へ

2026年5月23日(土)と24日(日)の2日間、「いつものもしもCARAVAN 各務原」は各務原市民公園を中心に開催されます。会場には福祉センターや勤労会館も含まれ、子どもから大人まで参加しやすい環境が整えられています。
時間は23日が11時から16時まで、24日が10時から15時まで。週末の公園での開催ということもあり、家族で立ち寄るきっかけとしても自然な形です。大きな会場に足を運ぶというよりも、普段の休日の延長に防災がある。そんな距離感が、このイベントらしさなのかもしれません。
共催には、株式会社良品計画、各務原市、一般社団法人 かかみがはら暮らし委員会が名を連ねています。さらに、警察署や消防本部、自衛隊、電力会社、食品メーカー、通信事業者など、さまざまな立場の団体が協力予定となっています。防災というテーマのもと、これだけ多様な組織が集まること自体が、地域のつながりの強さを物語っています。
それぞれの団体が持つ専門性や知見が、ブースや体験プログラムとして形になることで、来場者は多角的に防災を考えることができます。行政の取り組みを知る機会であり、企業の視点に触れる場でもあり、地域団体の活動を知るきっかけにもなります。
一方で、このイベントは単に情報を並べる場ではありません。体験を通して「自分だったらどうするか」を考える時間が用意されています。防災は遠い話ではなく、日常の延長線にあるもの。公園で過ごす時間のなかに、その気づきが自然と溶け込んでいくことを目指しているように感じます。 5月の新緑に包まれた各務原市民公園で、自分や家族の「いつものもしも」を見つめ直す。特別な覚悟を持たなくても、立ち寄ることから始められる防災があります。その入り口をつくっているのが、この2日間です。
体験の風が、地域の未来を少しずつ動かす
防災を「いつかやらなければいけないこと」ではなく、「今の暮らしのなかにあるもの」として考える。そのためには、難しい言葉よりも、心に残る体験が必要なのかもしれません。
「いつものもしもCARAVAN 各務原」は、イベントという形をとりながらも、その先にある地域の未来を見据えています。子どもたちが体験を通して学び、大人同士がつながり、地域全体で備えを共有する。そうした積み重ねが、いざというときの力になります。
その背景で「体験の風」を送り続けているのが、国立乗鞍青少年交流の家です。目立つ存在ではないかもしれませんが、地域と人を結び、学びの機会を広げる役割を担っています。防災というテーマを通して見えてくるのは、体験が人を育て、地域を育てるという確かな手応えです。 新緑の季節、各務原の公園で生まれる小さな気づきが、誰かの未来を支える力になるかもしれません。体験の風は、静かに、しかし確実に広がっています。
国立乗鞍青少年交流の家 概要
岐阜県高山市に位置する青少年教育施設。自然体験や集団生活、地域連携事業などを通じて、子どもたちの健やかな成長を支える活動を行っています。「体験の風をおこそう」運動の事務局として、岐阜県内の団体と連携し、体験活動の機会づくりを推進しています。