観光を学ぶことは地域を知ること 日本観光振興協会が小学生に伝えたい想い

「観光」と聞くと、旅行や名所めぐりを思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど最近は、その土地の歴史や文化、人の営みまで含めて考える“学び”としての観光に注目が集まっています。
そんな考え方を、子どもたちにも伝えようとする取り組みが、神奈川県・海老名で行われました。

小学生を対象にした「小田急子ども観光学講座in海老名」は、観光を「楽しむもの」から「考えるもの」へと広げる試みです。背景にあるのは、将来の地域や観光を支える視点を育てたいという想い。
この講座は、単なる体験イベントではなく、観光教育を通じて地域の未来を見据える取り組みの一例と言えそうです。

日本観光振興協会が小学生に観光を伝え続ける理由

観光という言葉には、「旅行」や「レジャー」といったイメージがつきものです。しかしその一方で、観光は地域の文化や産業、人の暮らしを支える重要な役割も担っています。そうした観光の本質を、次の世代にどう伝えていくか。その課題に向き合ってきたのが、公益社団法人日本観光振興協会です。

同協会は、将来の観光産業を支える人材育成の基盤として、早い段階から観光に触れる機会をつくることを重視しています。対象をあえて小中学生に据えているのも、「将来の職業選択」以前に、地域や社会を見る視点を育てたいという考えがあるからです。観光を通して、自分の住むまちの魅力に気づき、それを言葉にできるようになること。その積み重ねが、地域への誇りや関心につながっていきます。

これまで同協会では、学校での出前授業や、観光教育副読本の制作・公開などを通じて、子どもたちが身近な題材から観光を考えられる環境づくりを進めてきました。難しい専門知識を教えるのではなく、「なぜ人はその場所を訪れるのか」「地域にはどんな価値があるのか」といった問いを、自分の言葉で考えることを大切にしています。

今回開催された「小田急子ども観光学講座in海老名」も、そうした長年の取り組みの延長線上にあるものです。単発のイベントではなく、観光教育という継続的な活動の一コマとして位置づけられている点に、この講座の特徴があります。

理念を“学びの体験”に変えるために生まれた特別講座

日本観光振興協会が力を入れている観光教育は、知識を一方的に教えるものではありません。大切にしているのは、地域や観光を「自分ごと」として考える視点を育てることです。その考え方を、実際の学びの場として形にしたのが、「小田急子ども観光学講座in海老名」でした。

この講座は、小田急不動産と多摩大学が運営する、産学連携で子どもの学びを支える「マチカド子ども大学®」の特別回として開催されました。
主催はマチカド子ども大学®、共催として小田急電鉄と日本観光振興協会が参画し、地域・企業・教育機関が連携するかたちで実現した取り組みです。
沿線という日常に近いフィールドを舞台にすることで、小学生が無理なく観光を考えられる設計になっています。

特徴的なのは、観光地を「覚える」ことを目的にしていない点です。講師には、玉川大学名誉教授・名桜大学特任教授の寺本潔先生を迎え、寺本先生のオリジナル教材やワークを通して、観光を「自分の言葉で考える」プロセスが丁寧に組み込まれています。
また、本講座のために新たに制作されたオリジナルテキストも活用されており、寺本先生の観光教育に対する考え方が、子どもにも伝わりやすい形でまとめられていました。
どんな場所に、どんな人が訪れ、なぜその地域に魅力を感じるのか。そうした問いを重ねることで、観光の裏側にある産業や仕事、地域とのつながりが見えてくるよう構成されています。これは、日本観光振興協会が掲げる観光教育の考え方を、講座の形に落とし込んだものと言えそうです。

単発の体験イベントではなく、観光教育という大きな取り組みの中にしっかり位置づけられている点も、この講座の大きな特徴です。地域、企業、教育機関がそれぞれの役割を担いながら、一つの学びの場をつくる。その中心に、日本観光振興協会の理念が据えられています。

小学生が“観光”を自分の言葉で考えた時間

講座の中で行われたプログラムは、いずれも「正解を教える」ものではありません。小学生自身が考え、話し合い、言葉にすることを重視した内容で構成されています。その象徴とも言えるのが、最初に行われた地図帳を使った学びです。

普段は学校で使っている地図帳を、観光の視点で読み直す。小田急沿線を指でたどりながら、どんな場所があり、どんな特徴があるのかを整理していくことで、日常の延長線上に観光があることに気づいていきます。地図の上をなぞる行為そのものが、まるで頭の中で旅をしているような感覚につながる構成です。

続くワークでは、観光資源を「建物・施設」「祭り・イベント」「歴史・伝統」「生活文化」「食べ物」「自然」といった切り口で整理していきました。小田原城や地域のお祭りなど、名前を挙げること自体が目的ではなく、「なぜそれが観光につながるのか」を考える時間が用意されています。身近な話題から意見が広がっていく点は、小学生ならではの柔らかさを感じさせます。

さらに講座では、観光客の立場に立って考える視点も取り入れられました。家族旅行、熟年夫婦、海外からの観光客など、訪れる人によって求める体験は異なります。価格や目的といった軸を使いながら、「どんな人に、どんな旅が合いそうか」を考えることで、観光を受け入れる側の視点が自然と育っていきます。

最後には、観光パンフレットを読み込み、選んだ観光スポットを紹介する発表の時間が設けられました。顔ハメボードを使い、観光地になりきって紹介するという工夫により、発表の場も楽しさを伴ったものになっています。学んだことを自分の言葉で伝える経験は、観光を「知識」から「表現」へと引き上げる役割を果たしていました。

これら一連の流れから見えてくるのは、観光を単なる情報として覚えるのではなく、「なぜ」「誰のために」「どんな価値があるのか」を考える学びです。日本観光振興協会が大切にしてきた観光教育の考え方が、講座全体を通して具体的な形になっています。

地域・企業・大学が重なり合って育てる観光教育の場

この講座が印象的なのは、日本観光振興協会の考える観光教育が、ひとつの団体だけで完結していない点です。地域、企業、大学といった立場の異なる存在が、それぞれの役割を持ちながら一つの学びの場を支えています。

講座当日は、初対面の小学生同士でグループが組まれましたが、各グループには多摩大学の学生がサポート役として参加しました。年齢の近い大学生がそばにいることで、小学生が安心して意見を出しやすい環境がつくられています。答えを教えるのではなく、考えを整理したり、発言を後押ししたりする役割に徹している点も、この講座らしい工夫です。

また、学びの場が教室の中だけにとどまらなかったことも特徴のひとつです。講座の後にはロマンスカーミュージアムを訪れ、鉄道や地域の歴史を体感する時間が設けられました。観光を支える交通の存在を、実際の展示を通して知ることで、座学で得た知識が立体的につながっていきます。

こうした体験型の構成は、観光を「特別なもの」ではなく、日常と地続きの存在として捉えるための工夫とも言えます。地域に根ざした企業や教育機関と連携することで、観光教育はより現実味を帯びたものになります。その全体を束ねる役割を担っているのが、日本観光振興協会です。 協会が描く観光教育の姿は、知識を教えることにとどまらず、関わる人を広げていく点に重きが置かれているように感じられます。小学生、大学生、企業、地域。それぞれが関わることで、観光というテーマが一過性の体験ではなく、社会の中で循環していく学びへと育っていく。その構図が、この講座からは読み取れます。

観光教育が育てるのは、未来の地域を語れる人

今回の講座を通して見えてくるのは、観光教育が「観光業界のため」だけに行われているわけではない、という点です。観光を学ぶことは、自分の住む地域を知り、他者に伝える力を育てることでもあります。その積み重ねは、やがて地域への関心や誇りへとつながっていきます。

小学生のうちに、身近な場所を観光の視点で見直す経験をすること。誰かのために旅を考え、言葉にして発表すること。そうした体験は、すぐに目に見える成果として表れるものではありません。しかし数年後、十数年後に地域と向き合う場面で、ふと活きてくる力なのかもしれません。

日本観光振興協会が観光教育を続けている理由も、そこにあります。短期的な効果ではなく、長い時間をかけて地域や観光の未来を支える人を育てる。その姿勢は、今回の講座の設計や連携体制からも感じ取ることができます。

「小田急子ども観光学講座in海老名」は、その取り組みの一例に過ぎません。けれど、こうした一つひとつの実践が重なっていくことで、観光のあり方や地域との関わり方は少しずつ変わっていくはずです。観光を“訪れるもの”から“考え、つくるもの”へ。その入り口を、小学生に開いている点に、この取り組みの大きな価値があるように思えます。


公益社団法人日本観光振興協会 概要

公益社団法人日本観光振興協会は、将来の観光産業を担う人材育成を目的に、小中学生を中心とした観光教育の普及や、地域に根ざした学びの場づくりに取り組んでいます。出前授業や副読本の制作などを通じて、観光の意義や地域の価値を次世代に伝える活動を続けています。

URL:https://www.nihon-kankou.or.jp/home/