eスポーツは地域を変えるか 玉名市が実践する観光DXのリアル

「ゲームは遊び」と思われがちですが、その先にある可能性まで考えたことはあるでしょうか。

熊本県玉名市で開かれたメタバースとeスポーツの体験型イベントは、そんな固定観念に少し揺さぶりをかける取り組みでした。会場には200人を超える来場者が集まり、オンライン配信も行われるなど、地域発の取り組みとしては注目を集める内容となっています。

単なる大会ではなく、プロから学ぶ機会や、ゲームを“つくる側”の視点に触れられる体験も用意されていた点が印象的です。観光とデジタル技術をどう結びつけるのか。地域の魅力をどう外へ届けるのか。玉名市が試みた「稼ぐ観光DX」は、そのヒントを示す一つの実践例と言えそうです。

eスポーツを“体験の場”に広げた玉名市の挑戦

熊本県玉名市で開催された今回のイベントは、eスポーツ大会を中心に据えながらも、単なる対戦イベントにとどまらない構成が特徴でした。会場には200人を超える親子が来場し、オンライン配信も実施されるなど、リアルとデジタルの両面から参加できる形が取られています。

中でも注目を集めたのが、プロプレイヤーから直接指導を受けられる「e-Spa TAMANA塾」です。事前募集の段階で満員となり、会場では真剣な表情でアドバイスに耳を傾ける子どもたちの姿があったといいます。eスポーツを“見る”だけでなく、“学ぶ”機会として設計されている点は印象的です。

大会では、人気ゲームを活用した対戦が行われました。ゲームの舞台には玉名市をモチーフにした要素も取り入れられており、参加者は楽しみながら地域に触れる構造になっています。観光地を紹介するパンフレットとは異なり、デジタル空間の中で地域を体験するという発想は、これまでの観光PRとは少し角度が違います。

また、オンライン配信によって市外・県外からも視聴できる形が整えられていたことも見逃せません。現地に来られない人にも開かれた設計は、地域の取り組みを広く知ってもらううえで重要なポイントです。

eスポーツ大会という分かりやすい入口を用意しながら、「学び」や「地域との接点」を織り込む設計がなされています。玉名市の今回の試みは、デジタルを活用した新しい体験づくりの一例として捉えることができそうです。

「遊び」から「仕事」へ。ゲームプランナー体験が示したもう一つの可能性

今回のイベントが興味深いのは、eスポーツ大会やプロによる指導だけで完結していない点です。会場では「ゲームプランナー」の思考を学ぶ職業体験も行われ、子どもたちが“プレイヤー”とは別の立場からゲームに向き合う機会が設けられました。

ゲームプランナーとは、どんな世界観にするのか、どのようなルールにすれば面白くなるのかを考える仕事です。今回の体験では、ただ遊ぶのではなく、「どうすればもっと楽しくなるのか」「どんな仕組みにすれば多くの人に届くのか」といった視点を学ぶ内容が用意されていました。

eスポーツは「上手くなる」ことに注目が集まりがちですが、実際のゲーム業界には企画、制作、運営、配信など多様な役割があります。そうした裏側の仕事に触れる機会があることで、参加した子どもたちはゲームを“消費するもの”としてだけでなく、“つくる側の仕事”としても捉えるきっかけを得たはずです。

eスポーツを地域イベントとして実施する例は増えていますが、「将来の職業選択」という視点まで踏み込んだ構成はまだ多くありません。単発の盛り上がりに終わらせず、次の学びにつなげる設計があったことは、今回の取り組みの重要なポイントと言えるでしょう。

ゲームを入口にしながら、その先にある職業や産業へと視野を広げる。そこには、単なるイベント開催以上の意図が感じられます。デジタル技術を使うこと自体が目的ではなく、それを通じて何を育てるのか。今回の試みは、その問いに一つの方向性を示しているように思えます。

なぜ玉名市はeスポーツを選んだのか――「稼ぐ観光DX」という発想

今回の取り組みの背景にあるのが、「稼ぐ観光DX」という考え方です。観光と聞くと、名所や特産品を紹介し、実際に訪れてもらうことが中心になります。しかし人口減少やライフスタイルの変化が進む中で、従来型の観光施策だけでは持続的な人の流れを生み出すことが難しくなっています。

そこで玉名市が着目したのが、eスポーツとメタバースというデジタルの力でした。ゲームは世代を問わず関心を集めやすく、オンラインを通じて地域の外ともつながることができます。物理的な距離に左右されにくいという特性は、地方自治体にとって大きな強みになります。

さらに今回の企画では、単なるイベント開催にとどまらず、「関係人口」の創出を視野に入れている点が特徴です。関係人口とは、移住や観光といった一時的な関わりだけでなく、地域と継続的につながる人を指します。オンライン配信やメタバース空間を通じて地域に触れる機会をつくることは、その入り口の一つになり得ます。

観光DXという言葉は難しく聞こえるかもしれませんが、実際には「デジタルを使って地域との接点を増やす試み」と言い換えることができます。eスポーツという分かりやすいテーマを軸に、人の関心を引き寄せ、その先に地域とのつながりを設計する。玉名市の挑戦は、その実践例として注目に値します。

デジタル技術を導入すること自体が目的ではなく、どう活用すれば地域にとって持続的な価値を生み出せるのか。今回のイベントは、その問いに対する一つの答えを示そうとしているように見えます。

地方DXのヒントは“入口のつくり方”にある

今回の玉名市の取り組みを見ていると、DXは決して難しいIT導入の話だけではないと感じます。重要なのは、どんなテーマで人の関心を引き寄せるのか、そしてその先にどんな接点を用意するのかという設計です。

eスポーツという身近な入口を通じて、子どもたちには学びや職業の視点を、大人には地域との新しい関わり方を提示する。オンラインとオフラインを組み合わせることで、距離の壁も越えようとしています。そこには「イベントで終わらせない」という意思が見て取れます。

地方自治体がデジタルを活用する事例は増えていますが、単発の話題づくりにとどまるケースも少なくありません。その点で、今回の試みは“関係を続ける仕組み”をどう描くかに踏み込んでいる点が特徴的です。

観光をどう変えるのか。地域と外部をどう結び直すのか。玉名市の挑戦は、eスポーツという切り口を通じて、その可能性を探る一歩と言えるでしょう。DXの本質は技術そのものではなく、人と地域のつながりをどう再設計するかにあるのかもしれません。