地域と学生が並んで学ぶ場所 大谷大学のスマホ教室がつないできたもの

スマートフォンは今や生活に欠かせない道具ですが、「何となく苦手」「使い方がよく分からない」と感じている人は少なくありません。特に年齢を重ねるほど、その不安は大きくなりがちです。
そんな中、京都にある大谷大学では、地域住民と大学生が向き合いながら学び合うスマホ教室を継続的に行ってきました。操作を一方的に教えるのではなく、学生が寄り添い、参加者のペースに合わせて進めていくのが特徴です。
この取り組みは、スマホが使えるようになることだけが目的ではありません。地域で暮らす人の声に触れ、社会の課題を自分ごととして考えることも、学生たちにとって大切な学びになっています。大学と地域がゆるやかにつながるこの教室は、静かですが、確かな価値を積み重ねているように感じられます。

スマホが「便利なはずなのに遠い存在」になってしまう理由

スマートフォンは、連絡や調べもの、写真撮影など、日常のあらゆる場面で使われています。けれども、その便利さがすべての人に平等に届いているかというと、そうとは言い切れません。
特に年齢を重ねた世代にとっては、「操作が分からない」「間違えたら怖い」「聞ける人が身近にいない」といった理由から、スマホが少しずつ生活から遠ざかってしまうケースも多いようです。

使いこなせないこと自体が問題なのではなく、「分からないままにしてしまう環境」が、その距離を広げているのかもしれません。本当は家族と写真を共有したかったり、知りたい情報を自分で調べてみたかったりしても、最初の一歩が踏み出せない。そんな気持ちは、決して特別なものではありません。

スマホが生活を豊かにする道具である一方で、使えないことが小さな不安や孤立感につながってしまう現実もあります。だからこそ、誰かが隣に座り、同じ目線で教えてくれる場所の存在は、とても大きな意味を持ちます。ただ操作を覚えるだけでなく、「自分にもできるかもしれない」と感じられること。そのきっかけをつくる場が、今、静かに求められているように感じられます。

大谷大学が地域にひらいてきた、続いていくスマホ教室という取り組み

こうした課題に向き合うかたちで、大谷大学では、地域住民を対象としたスマホ教室を継続的に行ってきました。単発のイベントではなく、授業の一環として位置づけられている点が、この取り組みの大きな特徴です。大学が持つ知識や人の力を、学内だけにとどめず、地域にひらいていく姿勢が感じられます。

教室では、文字入力や通話、アプリの使い方など、日常生活に直結する内容を中心に進められています。ただし、決まったカリキュラムを一方的に教える形ではありません。参加者一人ひとりの理解度や関心に合わせて、その場で内容を調整しながら進めていく柔軟さが大切にされています。分からないことを分からないままにしない、そんな空気が教室全体に流れているようです。

このスマホ教室が印象的なのは、「できるようになること」だけをゴールにしていない点です。参加者が自分のペースで学び、少しずつ慣れていく過程そのものを尊重しています。操作を覚える時間と同時に、会話が生まれ、人との距離が縮まっていく。その積み重ねが、教室を単なる学習の場ではなく、安心して集まれる居場所にしているように感じられます。

大学というと、どうしても学生や研究の場というイメージが先に立ちます。しかし、こうした取り組みを見ると、地域と共にある存在としての役割も、確かに担っていることが伝わってきます。スマホ教室は、その象徴的な一例と言えるでしょう。

学生が“教える側”に立つことで生まれる、もうひとつの学び

このスマホ教室を支えているのは、教員だけではありません。実際に参加者のそばに座り、操作を説明しているのは大学生です。学生が教える側に立つことで、この教室には独特の空気が生まれています。

学生にとって、スマートフォンの操作は日常の一部かもしれません。しかし、それを「相手に伝わるように説明する」ことは、まったく別の経験です。専門用語を使わず、相手の反応を見ながら言葉を選ぶ。分かった瞬間の表情を感じ取り、次に何を伝えるべきかを考える。そこには、教科書だけでは得られない学びがあります。

また、教室では年齢も立場も異なる人同士が向き合います。地域で暮らす参加者の話を聞くことで、学生は社会の現実や課題を、机の上ではなく目の前の出来事として受け取ることになります。スマホの操作を教えながら、自然と会話が生まれ、人生経験や日常の話題が交わされる場面も少なくありません。

一方で、参加者にとっても、学生の存在は心強いものです。「若い人に聞くのは気が引ける」と感じる方もいるかもしれませんが、丁寧に寄り添う姿勢が、その壁を少しずつ和らげていきます。教える側と教えられる側という関係を超えて、人と人として向き合う時間が、この教室の大きな価値になっているように感じられます。

また、こうした学びを教室の中だけで終わらせず、写真撮影や地域を歩く企画など、日常の場面でスマートフォンを使ってみる機会も大切にされています。

取り組みの節目として位置づけられた、体験型イベントという試み

こうしたスマホ教室の積み重ねの中で、学んできたことを振り返り、実際に使ってみる機会として企画されたのが、体験型イベント「Smahone・Quest 〜ウォークイズ大冒険〜」です。これは単なる発表会や成果報告ではなく、楽しみながらスマートフォンに触れることを目的とした取り組みとして位置づけられています。

内容は、スマホの基本用語をクイズ形式で確認する時間や、スマートフォンを使って歩きながら挑戦する企画など、堅苦しさを感じさせない工夫が盛り込まれています。これまで教室で学んできた操作を、日常に近いかたちで試してみる。そんな実践の場として、このイベントは企画されました。

ここで大切にされているのは、「正しく操作できるか」よりも、「使ってみようと思えるかどうか」です。学んだ知識を思い出しながら手を動かすことで、自信につながっていく。その過程そのものが、教室の延長線上にある学びと言えるでしょう。特別な技術や難しい操作を求めるのではなく、日常にあるスマホの使い方を、もう一度自分のものにするための時間として設計されています。

このイベントは、スマホ教室の集大成であると同時に、これまで積み重ねてきた取り組みを象徴する存在でもあります。継続してきた学びが、ひとつの節目として形になる。その流れが自然につながっている点に、この活動の丁寧さが表れているように感じられます。

静かに伝わってくる地域とともに歩む大学の姿勢

スマートフォン教室という取り組みは、目立つ活動ではないかもしれません。しかし、使い方が分からず困っている人がいる現実に目を向け、学生とともに寄り添いながら続けていく姿勢には、大学が地域とどう向き合っているのかがはっきりと表れています。
一度きりのイベントで終わらせず、教室として積み重ねてきた時間があるからこそ、学びは参加者の日常にゆっくりと根づいていきます。

また、この取り組みは、地域住民のためだけのものではありません。学生にとっても、人に教えることの難しさや、社会の中で起きている課題を自分の言葉で受け止める経験につながっています。大学の学びが、教室の外へと自然に広がっていく。その過程が、このスマホ教室には詰まっているように感じられます。

誰かの「分からない」に手を差し伸べること。
その小さな積み重ねが、地域と大学をつなぎ、次の学びへとつながっていく。大谷大学が続けてきたスマホ教室は、そんな静かな価値を持った取り組みとして、これからも地域の中で息づいていくのではないでしょうか。


大谷大学 概要

学校法人真宗大谷学園が運営する大谷大学は、京都市北区にキャンパスを構え、地域とともに学び、社会と向き合う姿勢を大切にしてきました。
教育・研究活動にとどまらず、学生の学びを学外へとひらき、地域住民との交流や社会課題への取り組みを継続的に行っています。人と人との関係性を重んじる大学として、静かな実践を積み重ねています。

公式サイト:https://www.otani.ac.jp/