「介護が必要になったら退去」そんな老人ホームがある? 健康寿命の延伸を目指す「マゼラン 湘南佐島」

神奈川県横須賀市の海沿いに位置する「マゼラン 湘南佐島」は、全国でも数少ない「健康型有料老人ホーム」だ。60歳以上の自立した高齢者を入居対象とし、介護が必要になる前から健康の維持・増進を支援している。

同施設を運営するのは、全国で介護事業を展開する株式会社SOYOKAZE。「食事」「運動」「社会参加」を健康づくりの柱に掲げ、運動に参加するとコインが貯まる制度や、地域の人々も利用できるレストランなど、独自の取り組みを展開している。

今回は、マゼラン 湘南佐島を取材し、総支配人の稲葉淳氏に施設の特徴や運営方針について話を聞いた。介護事業者があえて「健康型」に取り組む背景や、健康で自立した暮らしを支える仕組みに加え、入居者向けに開催された健康セミナーの様子を紹介する。

元気なうちから入居する「健康型有料老人ホーム」とは?

マゼラン 湘南佐島は2019年9月に開設され、2022年12月から健康型有料老人ホームとして運営されている。全50室を備え、60歳以上の自立した高齢者を入居対象とし、現在は61歳から96歳まで、幅広い年代の入居者が暮らしている。

健康型有料老人ホームは、有料老人ホームの中でも数が少ない類型で、要支援・要介護認定を受けた場合は原則として退去する仕組みだ。介護が必要になってからの暮らしを支える施設とは異なり、元気なうちから健康の維持・増進に取り組み、自立した生活を長く続けることを目指している。そのため、同施設では運動や食生活の改善に加え、趣味や人との交流など、日々の暮らしを通じた健康づくりを支援している。

介護事業者がなぜ「介護を必要としない人」のための施設を?

マゼラン 湘南佐島を運営するSOYOKAZEは、デイサービスやショートステイなど、全国で幅広い介護サービスを展開している。その介護事業者が、なぜ介護を必要としない高齢者のための施設を運営しているのか。

稲葉淳総支配人は、その背景として日本の人口構造の変化を挙げた。高齢化が進む一方で生産年齢人口は減少しており、高齢者を支える現役世代の負担が今後さらに大きくなることが懸念されている。介護給付に関する費用も年間10兆円を超えるなど、介護が必要になってから支えるだけではない、新たな取り組みが求められているという。

そこで掲げるのが、「シニアを守る対象から自立し続ける個人に変える」という考え方だ。平均寿命と健康寿命の間におよそ10年の差があることにも触れ、「これを願わくばゼロにしたい。まず今は1年でも2年でも少なくしたい」と語った。

健康寿命と平均寿命の差が、そのまま介護を必要とする期間を意味するわけではない。それでも、元気に活動できる時間を少しでも延ばすことは、高齢者本人にとっても社会にとっても重要な課題だ。マゼラン 湘南佐島では「食事」「運動」「社会参加」を柱に、こうした考え方を日々の暮らしに取り入れている。

ラジオ体操で50コイン、散歩でも50コイン 運動が楽しみに変わる仕組み

マゼラン 湘南佐島が取り入れているユニークな仕組みの一つが、運動などに取り組むとコインが貯まる独自の制度だ。入居者はApple Watchを活用し、歩数などの活動データを記録。歩いたり、施設のプログラムに参加したりすることでコインを獲得できる。

例えば、朝のラジオ体操に参加すると50コイン。モーニングウォークでも50コインが貯まる。コインは1コイン=1円相当として、施設内の飲食などに利用できる。貯まったコインでカフェのパフェを楽しむことも可能だ。

歩数によるコインの付与基準は年齢によって異なる。60~74歳は100歩につき1コイン、75~89歳は70歩につき1コイン、90歳以上は30歩につき1コインという設定だ。年齢に応じた基準を設けることで、幅広い年代の入居者が参加しやすいよう工夫している。

また、Apple Watchで記録したデータは、日々の身体活動の変化を把握するためにも活用されている。運動を義務にするのではなく、コインが貯まる楽しみを加えることで、継続するきっかけをつくっている。

毎朝9時10分からラジオ体操、海辺の散歩や個別トレーニングも

同施設では、毎朝9時10分から入居者と職員が集まってラジオ体操を行っている。その後は曜日に応じてストレッチや海辺のウォーキングを実施。月・水・金曜日はストレッチ、火・木曜日は施設前の砂浜まで歩くプログラムが組まれている。

海辺のウォーキングでは、富士山を望む景色を楽しみながら約2,000歩を歩く。運動を特別なイベントとして行うのではなく、毎日の生活の中に取り入れることで、自然と体を動かす習慣をつくっている。さらに、1回30分、週2回のパーソナルトレーニングも用意。入居者の身体の状態や活動データなどを踏まえ、それぞれに合った運動に取り組めるようにしている。

稲葉氏が重視するのは、入居者が自分でできることをできるだけ維持することだ。職員が何でも代わりに行うのではなく、必要な支援を受けながら、自分の力で生活できる状態を長く保つ。そのための環境づくりに力を入れている。

海を望むレストランにスパも 趣味や交流を楽しめる暮らし

マゼラン 湘南佐島には、レストラン、ブックカフェ、サウナ付きスパ、定額制複合カルチャースクールなどが揃う。これらは一般にも開放されており、入居者だけでなく、地域の人々も利用できる。

レストラン

ブックカフェ

スパ

レストランでは三浦半島の食材を使った料理を提供。ブックカフェでは海を眺めながら、食事やスイーツを楽しめる。老人ホームと聞いて思い浮かべる施設とは、少し違った雰囲気だ。

こうした施設を地域に開放しているのは、入居者が社会とのつながりを保つためでもある。施設の中だけで生活が完結するのではなく、地域の人々が訪れ、同じ空間を利用することで、日常的に外部との接点が生まれる。入居者同士の交流も大切にしており、ゴルフや卓球、麻雀などのサークル活動を支援している。定額制複合カルチャースクールでは外部の専門家による講座も開催し、新しい趣味を見つけたり、仲間と一緒に楽しんだりする機会を提供している。

また、施設外への移動を支える送迎サービスなども用意されており、外出や買い物を楽しめる環境を整えている。運動や食事だけでなく、趣味や人との交流を通じて生活を充実させることも、同施設が掲げる「社会参加」の取り組みの一環だ。

もし介護が必要になったら? 住み替えを見据えたサポートも

健康型有料老人ホームでは、将来的に介護が必要になった場合、別の施設への住み替えを考える必要がある。マゼラン 湘南佐島でも、そうした事態に備えた相談や、グループ施設との連携に取り組んでおり、入居者が介護施設を事前に見学できる機会を設けているほか、相続などに関する専門家への相談にも対応している。

同じ「マゼラン」ブランドには、介護・看護スタッフが24時間常駐する住宅型有料老人ホーム「マゼラン 葉山一色」もある。湘南佐島から車で約20分の距離にあり、両施設のサービスを活用した暮らし方も提案している。入居中の健康づくりに力を入れる一方、将来の住まいや生活についても相談できる点には、介護事業を展開してきたSOYOKAZEの経験が生かされている。

免疫の専門家が解説 秋冬の体調管理で大切な食事と運動

マゼラン 湘南佐島では、日々の運動や食事に加え、専門家を招いた健康セミナーも開催している。10月26日には、入居者を対象とした「秋冬の体調管理に向けた健康セミナー」が行われた。講師を務めたのは、順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター細胞機能研究室准教授で、免疫治療研究センター副センター長を兼任する竹田和由先生だ。

竹田先生は、自然免疫と獲得免疫の違いなど、免疫の仕組みをわかりやすく解説。そのうえで、秋冬の体調管理に向けて意識したい生活習慣を紹介した。強調したのは、免疫を高めること自体が目的ではなく、健康な生活を維持することの大切さだ。食事については、筋肉や免疫細胞をつくる材料となるタンパク質を不足させないことが重要だと説明し、運動についても無理に頑張りすぎず、自分が気持ちよいと感じる程度を意識するよう勧めた。

後半には、参加者が免疫に関する○×クイズに挑戦。「笑うことは免疫に関係する?」「軽い運動の方が健康によい?」といった身近なテーマが出題され、入居者が楽しみながら健康について学んだ。質疑応答では、「どの程度の運動が適切なのか」「坂道を歩くのはどうなのか」といった具体的な質問も寄せられ、竹田先生は適切な運動の強さには個人差があると説明。自分のペースを守り、心地よいと感じる範囲で体を動かすよう助言した。

企業や行政との連携も 明治が高タンパクヨーグルトを3カ月間無償提供

マゼラン 湘南佐島では、企業や行政、専門家など、外部との連携にも力を入れている。神奈川県とは高齢者の未病改善に向けた連携を進めており、10月1日には黒岩祐治知事が施設を訪問。Apple Watchを活用した健康管理や運動プログラムなどを視察し、稲葉総支配人らと意見交換を行った。

外部連携の一例が、食品メーカーの株式会社 明治との協力だ。明治は、マゼラン湘南佐島が進める健康寿命の延伸に向けた取り組みに共感し、協力を申し出たという。10月20日からは、希望する入居者を対象に「明治プロビオヨーグルト R-1 the GREEK」各種を1日1個、3カ月間無償で提供している。同商品は、1個でタンパク質10gを摂取できる高タンパクタイプのヨーグルトで、今回の提供は高齢者の食生活に着目した協力の一つとなっている。

マゼラン 湘南佐島では、こうした企業や行政、専門家との連携を通じて、健康づくりの取り組みを広げている。

健康型ホームの拡大、生成AIの活用も 目指すのは地域の健康づくりの拠点

SOYOKAZEでは今後、マゼラン 湘南佐島で培った取り組みを、ほかの地域にも広げていく方針だ。介護が必要になる前の段階で入居する健康型有料老人ホームを増やし、各地域で健康寿命の延伸に向けたプログラムを展開する構想を描いている。

さらに、施設に入居していない高齢者にもサービスを届けるため、対話型の生成AIを活用したスマートテレビの導入も検討している。テレビを通じてAIと会話しながら、運動や健康づくりなどのサービスにつなげる仕組みで、在宅で利用できるサービスの拡充を目指す。稲葉氏は、健康型ホームの複数展開と、スマートテレビを通じたネットワークの拡大という二つの方向から、より多くのシニアの健康づくりを支えていきたいとの考えを示した。

介護が必要になってからの住まいを考えることはもちろん大切だが、元気なうちにどこで、どのように暮らすかという選択も、高齢期の生活を左右する。マゼラン 湘南佐島が目指すのは、一つの施設にとどまらず、健康で自立した暮らしを支える仕組みを社会に広げていくことだ。


マゼラン 湘南佐島 施設概要
施設名:マゼラン湘南佐島
所在地:神奈川県横須賀市佐島1-14-1
施設類型:健康型有料老人ホーム
運営会社:株式会社SOYOKAZE
入居条件:60歳以上の自立した方
居室数:50室
主な施設・サービス:レストラン、ブックカフェ、サウナ付きスパ、フィットネス、定額制複合カルチャースクールなど
公式サイト:https://magellan-sajima.jp/