10万文で誤訳わずか3件? AI翻訳の常識を変える「完全自動翻訳」とは

YouTubeで海外の動画を日本語の自動翻訳字幕で楽しんだり、旅行先で外国語のメニューをスマートフォンで翻訳したり。海外のウェブサイトも、翻訳機能を使えば日本語ですぐに読むことができる。AIを活用した翻訳技術は、いつの間にか私たちの生活に入り込んでいる。

ただ、字幕の意味が少しおかしかったり、訳された文章が不自然だったりと、翻訳の精度が気になることもある。日常的な場面なら多少の間違いで済むかもしれないが、仕事で使う重要な書類となれば話は別だ。数字や操作方法を一つ間違えるだけで、大きなトラブルにつながる可能性もある。

こうした翻訳の正確さという課題に挑んでいるのが、メタリアルグループの株式会社ロゼッタだ。同社は2026年10月14日、東京・大手町で記者発表会を開き、国内シェアNo.1の産業翻訳AI「T-4OO」を刷新した新ブランド「MetaRozetta(メタロゼッタ)」を発表した。

その特徴は、AIが翻訳するだけでなく、訳文の確認や修正まで担うこと。日本語から英語への翻訳では、10万文のうち、明確かつ重要な誤訳を含む文章がわずか3文という検証結果も示された。

AIで翻訳したのに確認だけで50時間?

AI翻訳は短時間で大量の文章を訳せる一方、その内容が正しいかどうかを人が確認する作業には時間がかかる。発表会では、メタリアルの秋山史門CMOが、この確認作業の負担を問題として取り上げた。

例えば、300ページの取扱説明書をAIで翻訳した場合、訳す作業自体は短時間で終わっても、人が原文と訳文を照らし合わせて全文を確認し、修正対応するには約50時間かかるケースがあるという。同社は、こうした翻訳後の確認作業を「AI残業」と表現する。この負担を減らすため、MetaRozettaでは翻訳後の確認作業も自動化する仕組みを取り入れた。

同社は自動車の自動運転になぞらえ、翻訳の自動化にも段階を設けている。今回発表された「最高精度(完全自動)」モードは、一定の条件下でAIが確認や修正まで担う「Lv4」にあたる。ただし、現時点で対応できる言語や文書には条件があり、あらゆる翻訳をAIだけで完成させる「Lv5」には達していない。

では、人による確認を減らしても、翻訳の正確さは保てるのか。その判断材料となるのが、今回公表された10万文の検証結果だ。

明確な誤訳は0.003%、その数字が意味するもの

ロゼッタが公表した検証では、日本語の取扱説明書を英語に翻訳した際、明確かつ重要な誤訳を含む文章の割合が0.003%だった。10万文のうち、該当したのはわずか3文だ。

ここでいう「明確かつ重要な誤訳」とは、数字の取り違えや指示内容の逆転、専門用語の誤りなど、読み手の理解や行動に影響する、客観的に明らかと判別できる間違いのこと。言い回しの主観的な好みや、表現の細かな違いまで数えたものではない。

例えば、取扱説明書で「電源を切る」という指示が「電源を入れる」と訳されてしまえば、使う人の行動が変わってしまう。こうした間違いは、文章が多少不自然であることとは意味が異なる。

今回の検証は10万文を対象に実施され、AIによる確認に加えて複数の専門家も評価に参加した。重要なのは、単に翻訳のスピードを上げるのではなく、人が確認しなければならない重大な間違いをどこまで減らせるかという点だ。ただし、0.003%という数値は、日本語から英語への取扱説明書・マニュアルを対象とした同社の社内検証によるもの。あらゆる言語や文書で同じ精度が保証されるわけではない。

では、実際に製品の取扱説明書を翻訳した企業は、その品質をどう評価したのか。

日立建機が翻訳AIを検証、現場の評価は

今回の発表会では、建設機械メーカー・日立建機株式会社による検証結果も紹介された。同社は2020年から従来の翻訳AI「T-4OO」を利用しており、現在は約1,500人、グループ会社を含め約20社が活用している。

今回、新モードの検証に使ったのは、油圧ショベルの取扱説明書にある「安全上のご注意」だ。操作を誤れば事故につながる可能性もあるため、正確な翻訳が欠かせない部分となる。検証では44ページの資料に含まれる約800文を日本語から英語に翻訳し、担当者が訳文を確認。明確な誤訳は0件だった。

発表会に登壇した向井恵子氏は、原文の内容が丁寧に反映されている点を評価。一般的なchatGPTやCopilotなどの生成AIで見られることがある訳抜けや過度な意訳も少なかったと振り返った。また、藤崎実氏は、海外の工場や代理店とのやり取りでは、わずかな翻訳の違いが指示の誤解につながる可能性があると説明。特に安全に関わる取扱説明書では、誤訳が訴訟リスクにもなり得ると指摘した。

さらに、向井氏は今後の課題として、翻訳前の日本語そのものが曖昧な場合に、文章をわかりやすくする支援への期待も示した。

正確さが求められる決算資料にもAI翻訳

日立建機の取扱説明書と同じように、翻訳の間違いが大きな問題になり得るのが、企業の決算資料だ。売上高や利益などをまとめた「決算短信」は、投資家が企業の業績を判断するための重要な情報となる。数字や専門用語の誤訳は、企業の状況について誤った理解を招くおそれがある。

2025年4月からは、東証プライム上場企業に対し、決算情報などの英文同時開示が原則義務化されている。東京証券取引所の調査によると、プライム上場企業の99.6%が決算短信を英文で開示している一方、全文を英訳している企業は57.9%にとどまる。決算発表までの限られた時間で、正確な英訳を用意することは企業にとって大きな負担となる。

こうした背景から、ロゼッタは東証プライム上場企業を対象に、MetaRozettaの「最高精度(完全自動)」モードを使った「決算短信英訳支援プログラム」を発表した。2026年12月31日までの申し込みを対象に、利用開始から3カ月間、一定の条件のもとで無償提供するという。

メタリアル自身も2019年から、AIが翻訳した英文決算短信を人の手で修正せずに開示しており、今後は新モードも活用する方針だ。ただし、今回の0.003%という検証結果は、あくまで取扱説明書を対象としたもの。決算短信については、今後詳細な品質検証を公表する予定だ。翻訳後に人が確認するかどうかは各企業の判断であり、開示内容に対する責任も企業側にある。取扱説明書での成果が、決算資料という別の分野でも再現できるかが、今後の課題となる。

AI翻訳はどこまで進化する?

今回のMetaRozettaは企業向けのサービスだが、注目したいのは、AIが翻訳するだけでなく、その内容の確認や修正まで担うようになったことだ。現時点では対応する言語や文書に条件があるものの、これまで人が一つひとつチェックしていた作業が変わり始めている。

今後、こうした技術がさらに進化し、幅広い場面で使えるようになれば、外国語の情報との付き合い方も大きく変わるかもしれない。海外で話題になっているニュースや作品も、翻訳の不自然さに気を取られることなく、内容そのものを楽しめるようになる。これまで言葉の壁を理由に見過ごしていた情報や作品も、今より身近な存在になるだろう。AI翻訳の進化は、私たちが触れられる情報の幅だけでなく、日々の楽しみ方まで広げてくれそうだ。

完全自動翻訳AI「MetaRozetta」:https://www.rozetta.jp/metarozetta/