AI・ITで聴覚障がい者の働き方はどう変わる?「雇用の質」を考えるDEFCONが初開催

障がいのある人が企業に就職することは、大切な一歩です。しかし、採用された後も安心して働き続け、自分の能力を十分に発揮できる環境が整っているかどうかは、また別の問題です。特に耳が聞こえない、聞こえにくい人にとって、職場での情報共有やコミュニケーションは、働きやすさを左右する重要な要素となります。

こうした課題について、AIやITの可能性も交えながら考えるイベント「DEFCON(デフコン)」が、2026年9月26日に東京・赤坂で初開催されました。IT企業の株式会社C4Cが主催し、聴覚障がいのあるインフルエンサー・難聴うさぎ氏が共同主催として参加。聴覚障がいのある39名を含む68名が集まりました。

イベントでは、AIを活用した会議の議事録作成など、ITによって仕事の選択肢を広げる取り組みが紹介されたほか、企業経営者や当事者らが障がい者雇用のあり方について意見を交わしました。テクノロジーは働く環境をどのように変えられるのでしょうか。今回のイベントで取り上げられた内容を紹介します。

採用して終わりではない。聴覚障がい者の働く環境を考えるDEFCON

有馬哲平氏

障がい者雇用では、採用する人数だけでなく、入社後にどのような仕事を任せ、どう成長を支えていくかも重要です。特に聴覚障がいのある人の場合、会議での情報共有や日常的なコミュニケーションなど、職場環境によって働きやすさが大きく変わることがあります。

今回のDEFCONが開催された背景には、こうした「雇用した後」の課題を広く知ってもらいたいという思いがあります。主催する株式会社C4Cでは、2018年に「デフエンジニアリング事業部」を立ち上げ、聴覚障がいのあるエンジニアを、聴覚障がいのない人と共通の条件や評価基準で採用・育成してきました。

もう一つの開催目的が、聴覚障がいのあるエンジニア自身が、仕事や技術について発信できる場をつくることです。IT業界ではさまざまな勉強会やイベントが開かれていますが、聴覚障がいのあるエンジニアが自らの経験や働き方を伝える機会は、まだ多くありません。 DEFCONでは、当事者による発表に加え、企業関係者やITに携わる人たちが意見を交わしました。障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが能力を発揮できる職場とはどのようなものなのか。採用の先にある働き方を考える機会となりました。

AIやITが広げる働き方の選択肢。3名が語った技術活用の可能性

田本拓磨氏・井上昌雄氏・村上龍平氏

聴覚障がいのある人が働くうえで、AIやITはどのような役割を果たすのでしょうか。DEFCONでは、聴覚障がいのあるエンジニアや学生3名が登壇し、それぞれの仕事や研究を通じた技術の活用方法を紹介しました。

筑波技術大学の田本拓磨氏は、音がどの方向から発生しているのかを知るための研究について発表しました。また、ITコンサルタントの井上昌雄氏は、聞こえにくい立場から会議の前後に行っている工夫を紹介。株式会社C4Cの村上龍平氏は、AI時代における議事録の取り方をテーマに発表しました。

3名の発表に共通していたのは、ITを単に聞こえにくさを補うための道具として捉えるのではなく、自分に合った方法で情報を受け取り、仕事を進めるために活用するという考え方です。音声だけに頼らず、文字など複数の方法で情報を得られることは、働き方の選択肢を広げることにもつながります。

こうした技術の活用は、聴覚障がいのある人だけでなく、さまざまな事情を抱える人の働きやすさにもつながる可能性があります。AIやITをどのように取り入れれば、より多くの人が能力を発揮できるのか。今回の発表は、これからの職場環境を考えるうえでも参考になる内容でした。

障がい者雇用は「人数」から「働きやすさ」へ。企業と当事者が考える未来

イベント後半のパネルディスカッションでは、衆議院議員の斉藤りえ氏や株式会社イルグルム代表取締役CEOの岩田進氏、聴覚障がいのあるエンジニアらが登壇し、これからの障がい者雇用について意見を交わしました。議論の中心となったのは、採用人数だけでなく、一人ひとりが能力を発揮し、成長できる環境をどう整えるかという問題です。

2026年7月には、民間企業に義務付けられている障がい者の法定雇用率が2.7%に引き上げられました。しかし、斉藤氏は、この数字を達成すること自体がゴールではないと指摘。適切な賃金や研修、昇進の機会を設けるなど、採用後の働き方にも目を向ける必要性を訴えました。また、岩田氏は、それぞれの強みを活かし、弱みを補い合いながら成果を生み出せる職場づくりの大切さを語りました。

一方、AIや音声認識技術の進化によって、聴覚障がいのある人が自分で情報を受け取り、判断や発言をする機会も広がっています。ただし、技術だけですべての課題が解決するわけではありません。手話通訳や文字による情報共有なども含め、本人が自分に合った方法を選べる環境が求められます。

こうした環境づくりの土台となるのが、企業と当事者の対話です。何に困っているのか、どのような工夫があれば働きやすくなるのかを、お互いに伝え合うことが欠かせません。AIやITの活用とともに、一人ひとりの状況を理解し、協力しながら働き方を考えることが、障がい者雇用の質を高める鍵となりそうです。

アンケートで満足度88.8%。聴覚障がいへの理解を深めるきっかけに

今回のDEFCONには、聴覚障がいのある39名を含む68名が参加しました。イベント終了後のアンケートには54名が回答し、満足度は88.8%となりました。回答者の多くがイベントを高く評価しており、新たな発見や学びにつながったことがうかがえます。

参加者からは、普段は聴覚障がいのある人と接する機会が少なく、初めて知ることが多かったという声が寄せられました。また、耳が聞こえないことを否定的に捉えていたものの、イベントを通じて思い込みや認識が変わったという感想もありました。

さらに、自分自身の将来のキャリアを見つめ直すきっかけになったという声や、新しいことを知ることで視野が広がったという意見も寄せられています。聴覚障がいのある人とそうでない人が、それぞれの経験や考えを共有することの大切さが伝わる結果となりました。

参加者からは今後の開催を望む声も寄せられました。普段は接する機会の少ない人同士が経験や考え方を共有することで、新しい気づきが生まれる。DEFCONは、そうした交流の場としても意義のあるイベントとなったようです。

AIと人の対話がつくる、誰もが働きやすい未来へ

AIによる音声認識や情報共有の技術が進化することで、聴覚障がいのある人が自分に合った方法で仕事に取り組める可能性は広がっています。しかし、技術が進歩するだけで、すべての課題が解決するわけではありません。

大切なのは、一人ひとりの違いを理解し、どのような環境であれば能力を発揮できるのかを、ともに考えていくことです。今回のDEFCONは、テクノロジーと人との対話、その両方が働きやすい社会をつくるうえで重要であることを示す機会となりました。

C4Cでは今後もDEFCONを継続的に開催し、「デフ×IT」の可能性を発信していく予定です。AIやITがさらに身近になるなかで、障がいの有無にかかわらず、誰もが自分らしく働ける社会へとつながっていくことが期待されます。