高校生がつくった教科書に込めた想い|滋賀県立守山北高校が描く新しい学び

「教科書」は、先生や出版社がつくるもの――そんなイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。しかし、滋賀県立守山北高等学校では、その常識を覆すような一冊が誕生しました。完成したのは、高校生自身が制作に参加し、自分たちの言葉や経験を形にした『みらいの教科書』です。

この教科書が生まれた背景には、新設された「みらい共創科」という新しい学びの存在があります。地域を教室に見立て、地域の人々や企業と関わりながら学ぶこの学科には、もともと決まった教科書がありませんでした。だからこそ、生徒たちが実際に経験した挑戦や気づきを、後輩たちへ受け継ぐ「生きた教材」としてまとめる取り組みが始まったのです。

生徒と教職員、そして出版社が何度も対話を重ねながら完成させた一冊には、教室だけでは得られない学びや、人と地域とのつながりが詰まっています。本記事では、『みらいの教科書』が生まれた背景や制作の裏側、そして守山北高校が目指す新しい学びのかたちについて紹介します。

教科書がないからこそ、高校生たちが”未来の教材”をつくった

「教科書は最初から用意されているもの」。そんな当たり前を覆す取り組みが、滋賀県立守山北高等学校で始まりました。2025年に新設された「みらい共創科」では、地域や企業を学びの場とし、生徒が実際に現場へ足を運びながら学ぶ独自のカリキュラムが採用されています。そのため、一般的な教科のように市販の教科書や参考書が存在せず、日々の実践を積み重ねながら学びを形づくっていく必要がありました。

そこで生まれたのが、生徒自身の経験をまとめた『みらいの教科書』です。授業で学んだ知識だけではなく、地域での活動を通して感じたことや試行錯誤、成長の過程までを一冊にまとめることで、これから入学する後輩たちに学びを引き継ぐ”生きた教材”として制作されました。誰かが一方的につくった教材ではなく、実際に学んできた高校生自身の視点が反映されていることが、この教科書ならではの大きな特徴です。

また、この取り組みは教材づくりにとどまりません。学校が目指す学びの魅力を、中学生や保護者、地域の人々へ伝える役割も担っています。教室の中だけでは見えにくい「どんなことを学び、どのように成長していくのか」を、一冊を通して具体的にイメージできるよう工夫されているのです。

高校生が学びながら教科書をつくり、その教科書が次の世代へ受け継がれていく――。『みらいの教科書』には、新しい学科だからこそ実現できた、学びを未来へつなぐ仕組みが詰め込まれています。

「自分たちの言葉で伝えたい」高校生と出版社が一緒につくり上げた一冊

『みらいの教科書』は、生徒たちが学んできた内容をそのまま冊子にまとめただけではありません。制作期間のおよそ1か月半、編集を担当した紫洲書院のチームは何度も学校へ足を運び、生徒たちとの対話を重ねながら、一冊を一緒につくり上げていきました。

制作の中で生徒たちから挙がったのは、「文字ばかりではなく直感的に伝わるデザインにしたい」「自分たちの言葉でリアルに伝えたい」「初めてインターンシップへ行く人の気持ちに寄り添える内容にしたい」といった率直な意見です。編集チームはそうした声を一つひとつ受け止め、構成やデザインを何度も見直しながら、生徒たちの思いや実感が自然に伝わる一冊を目指しました。

だからこそ完成した教科書には、どこか温かさがあります。活動の成果だけを並べるのではなく、不安や迷い、挑戦の中で得た気づきまでが反映されているため、「学びの記録」というより、生徒たちが歩んできた時間そのものが詰まった一冊になっているのです。こうした制作過程そのものも、生徒たちにとっては誰かと対話しながら一つのものを形にしていく貴重な学びになったことでしょう。

教材は先生がつくり、生徒はそれを学ぶもの――そんな従来のイメージとは異なり、生徒自身がつくり手として関わった『みらいの教科書』。一人ひとりの声を大切にしながら完成したこの一冊は、「共創」という学科の考え方を、その制作過程でも体現した象徴的な取り組みといえそうです。

教室を飛び出した学びが、未来へつながる。地域そのものが「教室」になる3年間

『みらいの教科書』では、「何を学ぶのか」だけではなく、「どのように学び、どのように成長していくのか」が分かるよう工夫されています。新入生が3年間の学校生活をイメージしやすいよう、「共創」という学びの考え方から始まり、地域との関わりや実践的な活動までを一つの流れとして紹介。初めてこの学科を知る人でも、みらい共創科ならではの学びを自然に理解できる内容になっています。

紹介されているのは、教室で完結する授業だけではありません。守山市の中山道の歴史や琵琶湖の水環境を学ぶフィールドワーク、農業体験、地域と連携したイベントなど、実際に地域へ出て人と関わりながら学ぶ活動が数多く盛り込まれています。現場で感じた疑問や発見を次の学びへつなげるプロセスまで紹介されていることからも、この学科が地域そのものを学びのフィールドとしていることが伝わってきます。

さらに、今夏に予定されているインターンシップについても大きく取り上げられています。初めて地域の職場へ足を運ぶ高校生が安心して学びに向き合えるよう、当日の心構えや気づきを深めるためのヒント、チェックリストなども掲載されており、実践的な内容が充実しています。知識を覚えるだけではなく、自ら行動し、地域の人との出会いを通して学びを深めていく――そんなみらい共創科の教育が、この一冊には分かりやすくまとめられていました。

教科書というと、机に向かってページをめくるイメージがあります。しかし『みらいの教科書』が伝えているのは、その先にある学びです。地域へ一歩踏み出し、人との出会いや経験を重ねながら、自分自身の未来を考えていく。そんな学びの姿勢こそが、この教科書で最も伝えたいメッセージなのかもしれません。

一冊の教科書が、これから出会う誰かの「最初の一歩」になる

完成した『みらいの教科書』は、制作して終わりではありません。今後は、みらい共創科の授業やオリエンテーション、体験入学などで活用されるほか、近隣の中学校や他校の探究学習の参考資料としても活用される予定です。これまで先輩たちが地域で積み重ねてきた学びが、一冊の教科書を通じて次の世代へ受け継がれていきます。

みらい共創科が目指しているのは、知識を身につけるだけではなく、地域社会の中で多様な人と出会い、自ら考え、行動する力を育むことです。その学びは毎年少しずつ形を変え、生徒一人ひとりの経験によって新たな価値が加わっていきます。だからこそ、この教科書も完成形ではなく、これから先の学びによってさらに育っていく存在なのかもしれません。

高校生活の3年間は、進路や将来について考える大切な時期です。その時間の中で学校の外へ飛び込み、人との出会いや挑戦を重ねながら、自分らしい未来を探していく――。『みらいの教科書』には、そんな歩みを後押しするヒントが数多く詰め込まれています。 教科書は、学ぶためのものというイメージがあります。しかしこの一冊は、それだけではありません。先輩たちが地域で得た経験や思いを未来へつなぎ、これから学ぶ人の背中をそっと押してくれる存在です。守山北高校が育もうとしている「地域とともに学ぶ」という教育の価値は、この教科書を通して、これからさらに多くの人へ広がっていくことでしょう。

未来をつくる学びは、一冊の教科書から始まる

生徒たちが自分たちの経験を振り返り、後輩へ受け継ぐために形にした『みらいの教科書』。そこには授業内容だけではなく、地域の人との出会いや挑戦の中で得た気づき、そして自分自身と向き合いながら歩んできた成長の軌跡が詰まっています。

教科書は、誰かが用意した答えを学ぶためのものというイメージがあります。しかし、この一冊は生徒自身がつくり手となり、学びそのものを未来へつないでいく新しい教材です。だからこそ、これからみらい共創科へ進む生徒たちにとってはもちろん、地域とともに学ぶ教育に関心を持つ人にとっても、多くのヒントを与えてくれる存在になりそうです。

地域を舞台に人とつながり、自ら考え、行動する力を育む守山北高校のみらい共創科。『みらいの教科書』から始まる学びが、これからどのような未来へつながっていくのか、その歩みに注目です。


滋賀県立守山北高等学校 概要

滋賀県守山市にある滋賀県立守山北高等学校は、「自ら学び、未来を切り拓く力」を育む教育に取り組む県立高校です。2025年には新たに「みらい共創科」を開設し、地域や企業、行政などと連携した探究型の学びを推進。教室の中だけにとどまらず、地域社会を学びのフィールドとして、多様な人との出会いや実践を通じて、自ら考え行動できる人材の育成を目指しています。

公式サイト:https://www.morikita-h.shiga-ec.ed.jp/