市役所で“歩くAI”が道案内 静岡市清水区役所で「AICO」とロボットの実証実験が始動

市役所や区役所を訪れたとき、「どの窓口へ行けばよいのか分からない」「手続きに必要なものを確認したい」と、入口付近で戸惑った経験がある人もいるでしょう。職員に尋ねれば解決できる一方、混雑している時間帯には声をかけるタイミングをつかみにくく、外国語での案内やデジタル機器の操作に不安を感じる人もいます。

こうした来庁者の案内を支える新たな試みが、静岡市清水区役所で始まりました。株式会社ファーストローンチが開発・提供するAIアバター接客システム「AICO(アイコ)」が、庁舎総合案内の実証実験に採用されています。画面上で質問に答えるキオスク端末に加え、自ら移動して来庁者へ近づく受付・案内ロボットも設置され、行政窓口におけるAI活用の可能性を探ります。

清水区役所で始まったAIアバター案内の実証

オープニングセレモニーの様子

「静岡AIアバター推進プロジェクト」と名付けられた今回の実証実験は、2026年8月10日から2027年2月末まで、静岡市清水区役所の1階で行われる予定です。

プロジェクトには静岡市、学校法人静岡理工科大学、清水港振興株式会社、ファーストローンチのほか、サポート企業としてmakidai合同会社、アオハル合同会社、キングソフト株式会社が参画しています。
総合案内窓口の横には「AICO」を搭載したキオスク端末、出入口付近には同じく「AICO」を内蔵する自律走行型ロボット「Lanky Mini」が設置されました。庁舎内の窓口や手続きに関する一次案内を、音声や文字を使って提供します。

「AICO」は、人と音声で対話しながら受付や施設案内、問い合わせ対応などを支援するAIソリューションです。自治体や行政機関、企業などで採用されており、2025年度には宮城県の「みやぎ認定IT商品」に認定されています。

端末の前で待つだけではない“歩み寄る案内”

実証の大きな特徴は、画面設置型とロボット型という二つの方法を同じ庁舎内で試す点です。

キオスク端末は、来庁者がその場で話しかけることで質問に答えます。一方の「Lanky Mini」は自律走行機能を備えており、入口付近で立ち止まっている人などにAI側から近づき、声をかける案内が可能です。AIアバターの対話能力とロボットの移動能力を組み合わせ、画面の中にいたAIへ“動ける身体”を持たせた形です。

実証期間中は、それぞれの利用率や案内効果、来庁者との接点にどのような違いが生まれるのかを比較します。質問する場所が分からない人にも働きかけられる点は、従来の案内端末にはなかった特徴といえそうです。

ご当地VTuber「七海 波音」が親しみやすい案内役に

AIアバターの案内役を務めるのは、清水港をモチーフにした静岡・清水のご当地VTuber「七海 波音(ななみ はのん)」です。

行政窓口へデジタル技術を取り入れると、便利になる一方で、機械的で話しかけにくい印象を持たれる可能性もあります。地域で活動するキャラクターを案内役にすることで、そうした心理的なハードルを和らげ、子どもから高齢者まで利用しやすい雰囲気をつくる考えです。

キオスク端末は、日本語、英語、中国語、韓国語をはじめとする13か国語以上に標準対応します。ロボット型は日本語、英語、中国語、韓国語の4言語から運用を開始し、今後対応言語を拡充する予定です。文字入力だけに頼らず音声で質問できるため、端末操作が得意ではない人にも使いやすい案内方法が期待されます。

学生も参加する「設置して終わりではない」改善

今回の取り組みには、静岡理工科大学情報学部・鍋田研究室の学生も継続的に参加します。担当するのは、AIが回答するための知識登録、応答内容の正確性確認、利用者の視点に立った検証や改善提案などです。

完成済みのシステムを置くだけではなく、実際の会話ログや利用状況を踏まえ、運用しながらAIを育てていきます。技術そのものだけでなく、AIを行政の現場で運用し、改善するための知識や経験を地域に蓄積できる点も特徴です。

ファーストローンチは「AICO」の基本システムやロボット制御ソフトウェアの開発、導入工事、実証期間中の運用・保守を担当します。「Lanky Mini」のハードウェアは、OrionStar社製サービスロボットを国内で展開するキングソフトが提供します。

新清水庁舎を見据えた案内効果の検証

静岡市では、新清水庁舎の建設に向けた検討が進められています。今回の実証では、案内の精度や多言語での利用状況、来庁者の反応に加え、画面設置型とロボット型の違いを定量・定性の両面から確認します。

得られた知見やデータは、新庁舎における市民サービスや、AIアバターとロボットを活用した行政案内の検討に用いられる予定です。ただし、実証結果が新清水庁舎への本格導入を確約するものではありません。

AIが支えるからこそ残せる「人にしかできない対応」

行政窓口では、場所や手続き方法を伝えるだけでなく、来庁者の短い言葉や持参した通知から事情をくみ取り、必要な相談や支援へつなぐ対応も求められます。すべてを機械に置き換えるのではなく、定型的な案内をAIが補助し、職員が判断や個別相談に時間を使える環境を整えることが、この実証の大切な視点です。

画面の前で質問を待つAIから、自ら歩み寄って声をかけるAIへ。技術の変化だけでなく、ご当地キャラクターや地域の学生が関わりながら、親しみやすさと正確さを育てていく点も印象に残ります。来庁者の迷いを少し減らし、人による丁寧な支援を守る仕組みとして、行政窓口にどのようになじんでいくのか注目されます。