妊婦向けRSウイルスワクチンが4月から原則無料に、定期接種化で変わる乳幼児の健康守り

2026年4月、妊婦を対象としたRSウイルスワクチン「アブリスボ(R)筋注用」が定期接種化された。これまで任意接種として3万円以上の自己負担が必要だったワクチンが、原則無料で受けられるようになったことは、多くのお母さんにとって大きな安心材料といえるだろう。

しかし、「RSウイルス」という名前は聞いたことがあっても、具体的にどのようなリスクがあるのか、また「妊娠中に打つワクチン」の安全性はどうなのか、不安を感じている妊婦さんも少なくない。SNS上の真偽の定かではない情報に惑わされ、接種を迷っている声も耳にする。

本記事では、山王ウィメンズ&キッズクリニック大森の院長であり、産婦人科医の髙橋怜奈先生の視点を交え、RSウイルスの脅威と新しく始まった母子免疫ワクチンの真実について詳しく解説していく。

髙橋 怜奈(たかはし・れな)先生
山王ウィメンズ&キッズクリニック大森 院長。産婦人科専門医。SNSやYouTube等でも、女性の健康や妊娠・出産に関する正しい知識を分かりやすく発信。

ほぼ100%が感染? 知っておきたいRSウイルスの「真実」

RSウイルスは、ほぼすべての乳幼児が2歳までに一度は感染すると言われる非常に身近な感染症。生まれたその日から感染リスクにさらされており、決して他人事ではない。

医療機関を受診した2歳未満の乳幼児のうち、約25%が入院に至っており、その中でも6カ月未満の赤ちゃんが約40%を占める。特筆すべきは、入院した乳幼児の90%以上には基礎疾患がないという点。特別な持病がなくても、誰にでも入院に至るリスクがあるのだ。

また、乳幼児期の入院経験はその後の健康にも影を落とす。ある調査によれば、3歳時点での入院経験・喘息発症率は、一般の子どもを対象群とした場合、1%であるのに対し、RSウイルスでの入院経験者は23%にものぼる。この傾向は成長後も続き、7歳時点では30%(対照群3%)、13歳時点では37%(対照群5.4%)と、高い数値が報告されている。

さらに、入院時の付き添いや仕事の欠勤など、家族にかかる負担も軽視できない。RSウイルス対策は、家族全体の生活を守ることにも直結する。

産声の瞬間から守る。画期的な「母子免疫ワクチン」の仕組み

このリスクから赤ちゃんを守る「第一歩」となるのが、4月から定期接種となった母子免疫ワクチン。

妊婦が接種することで母体内に作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、免疫が未発達な出生直後から予防効果を得られる仕組みだ。すでに世界65カ国以上で承認されており、大規模な調査により早産リスクへの安全性も確認されている。

髙橋怜奈先生インタビュー【専門医が語るワクチンの意義と安全性】

RSウイルスワクチンの定期接種化について、現場の第一線で活躍する髙橋怜奈先生にお話を伺った。

――今回の定期接種化を、先生はどう受け止めていらっしゃいますか?

「乳児期の感染による入院や重症例の抑制、将来の気管支喘息の発症リスク低下、そして入院に伴う労働力の低下などを考えると、一律に接種ができるようになる定期接種化は素晴らしいことだと思います。RSウイルスは2歳までにほぼ100%が感染するとされており、初めての感染では約3割で喘鳴や呼吸困難などの重症化がみられます。入院例のなかには人工換気を必要とするケースもあり、決して軽視できないウイルスなのです」

――ワクチンの予防効果や安全性について教えてください。

「このワクチンは、お母さんが作った抗体を赤ちゃんに引き継ぐものです。RSウイルス感染症による受診を要する下気道感染症については、生後180日までで約5割の予防効果、重症例に限れば約7割の予防効果が認められています。

安全性については、主な副反応として接種部位の痛みや腫れ、頭痛などが挙げられます。海外の一部報告で妊娠高血圧症候群のリスク増加の示唆もありましたが、日本で承認された臨床試験ではその増加は認められませんでした。ワクチンの成分が胎児に移行することもなく、赤ちゃんへの直接的な影響はありません。SNSで不安視されている早産リスクについても、日本で接種する『アブリスボ(R)筋注用』では上昇はみられませんでした。当院でも新しいワクチンだからなんとなく心配、という声もありますが、きちんと説明すると皆様安心し、ほとんどの人が接種されています」

――接種を迷っている妊婦さんへ、アドバイスをお願いします。

「基本的に妊婦さん全員に接種をお勧めします。このワクチンは、自転車のヘルメット着用と同じ『努力義務』を伴う定期接種であり、国が積極的に勧奨しているものです。新しいワクチンで心配かもしれませんが、重症化抑制などのメリットは様々なデータで明らかになっています。副反応も多くは局所的な反応で、すぐに収まります。

現場では『今まで3万円以上したワクチンが無料で打てるのはうれしい』『上の子がRSウイルスで大変だったので、自費でも打ちたいと思っていた』といった喜びの声も届いています。正しい情報は厚生労働省のページにも詳しく掲載されていますので、ぜひご覧になってください」

赤ちゃんの健やかな成長のために、今できる選択を

RSウイルスは、どんなに気をつけていても避けることが難しい身近な感染症。しかし、これからは「妊娠中にワクチンを打つ」という選択によって、産声の瞬間から赤ちゃんを防御壁で守ることができる。

「新しいものだからなんとなく心配」という不安に対し、専門医の言葉や公的なデータは確かな指針となる。当院でも、説明を聞くことで多くの方が安心して接種を受けているという。

赤ちゃんの未来と家族の笑顔を守るための、大切な一歩。母子免疫ワクチンは、その大きな助けとなるだろう。