ショッピングセンターが教育拠点化、少子化と共働き時代が動かす1兆円習い事市場
休日に家族で訪れる場所として親しまれてきたショッピングセンター。食事を楽しみ、買い物をして、時には映画を観る――そんな過ごし方が定番でした。館内を歩けば、フードコートの賑わいや、季節ごとのイベントに足を止める人の姿も見られ、日常の延長にある“ちょっとした非日常”を楽しめる場所として、多くの人に利用されてきました。
しかし最近、その風景に少しずつ変化が見られています。施設の一角に英会話や体操、音楽教室などの習い事が集まり、“学びの拠点”のような役割を担い始めているのです。買い物の合間にレッスンへ向かう子どもたちの姿も、以前より自然な光景になりつつあります。
背景には、少子化や共働き世帯の増加、そして遊び場の減少といった社会の変化があります。限られた時間の中で、効率よく質の高い体験を求める動きが強まるなか、ショッピングセンターの役割も少しずつ広がっているようです。
少子化でも拡大? 習い事市場は約1兆円規模へ

子ども向けの習い事市場は、現在およそ1兆円規模とされており、少子化が進むなかでも安定した需要を維持しています。子どもの数自体は減少しているものの、一人あたりにかける教育費はむしろ増加傾向にあり、より質の高い体験への関心が高まっていることがうかがえます。
なかでも、体力づくりや運動機会の確保といった観点から、スポーツ系の習い事は安定した人気を保っています。見直しの動きがありながらも、一定のニーズが継続している点は特徴的です。単なる知識習得だけでなく、身体的な成長や経験を重視する流れが、現在の市場を支えているといえそうです。
「ついでに通える」が新しいスタンダード

こうした習い事の需要を受け、ショッピングセンター内に教室が集まる動きが広がっています。その背景には、共働き世帯の増加があります。2025年には共働き世帯数が1,333万世帯に達し、生活の中で「効率よく時間を使う」ことがより重視されるようになりました。
ショッピングセンターであれば、買い物や食事とあわせて習い事を済ませることができ、保護者にとっても利便性が高い環境です。子どもがレッスンを受けている間に、夕食の買い物を済ませるといった使い方も可能になります。こうした“生活導線の中に組み込める”点が、多くの支持を集めている理由のひとつです。
公園で遊べない? 広がる遊びの制限
一方で、子どもたちが自由に体を動かせる場所は減少しています。全国的に、公園でのボール遊びが制限されるケースが増えており、特に都市部ではその傾向が顕著です。調査によると、多くの自治体で何らかの規制が設けられており、一律で禁止している地域も見られます。
こうした環境の変化は、子どもたちが安心して運動できる場所の不足につながり、結果として習い事への需要を後押ししている側面もあると考えられます。安全で整備された環境の中で体を動かせる場として、教室の役割はより重要になっています。
“できること”が増える複合型レッスン

習い事の内容にも変化が見られます。従来はひとつの種目に特化した教室が主流でしたが、現在では複数の運動を一度に体験できる「複合型」が広がりつつあります。たとえば体操教室では、跳び箱やマット運動、鉄棒、トランポリンなどを組み合わせたプログラムが一般的になっています。また、体力向上だけでなく、集中力や礼儀、自己肯定感といった非認知能力の育成にも注目が集まっています。身体を動かしながら多面的に成長できる点が、保護者からの支持につながっているようです。
急成長する体操教室「ネイス」

こうした流れの中で、子ども向け体操教室を展開する「ネイス」は急成長を遂げています。全国に171店舗を展開し、5年で売上は約3倍の28億円に拡大。店舗数や会員数も大きく伸びており、習い事市場の変化を象徴する存在となっています。
ショッピングセンターの“教育インフラ化”という動きとともに、こうした教室の存在感も高まっているといえるでしょう。
買い物ついでに始まる新しいきっかけ

ネイスの店舗の約9割はショッピングセンター内に出店しています。その理由として挙げられているのが、保護者の生活動線への適応です。これまでの習い事は「わざわざ通うもの」というイメージがありましたが、日常の中で自然に立ち寄れる環境をつくることで、そのハードルを下げています。
実際に、入会者の多くが事前に検討していたわけではなく、買い物の途中で教室を見かけたことがきっかけになっているケースも少なくありません。ガラス越しにレッスンの様子が見える設計や、カラフルな器具による視覚的な魅力が、子どもの興味を引きつけている点も特徴です。
小スペースで実現する多彩なレッスン

ショッピングセンター内での運営には、スペースの制約という課題があります。これに対し、ネイスでは器具の多くを自社開発することで対応しています。安全性を確保しながら、多様な運動ができる設計がなされており、限られた空間でも充実したレッスンが可能です。強化スポンジを使用した跳び箱やエアートランポリンなど、柔らかく安全性の高い器具を採用することで、子どもが安心して挑戦できる環境が整えられています。こうした工夫が、SCという場所での教室展開を支えています。
暮らしの中に自然と溶け込む“学びの場”
ショッピングセンターは、これまでの「買い物をする場所」から、少しずつ役割を広げているようです。日々の生活の中で、子どもの学びや体験も自然に取り込める場所として、その存在感が増しているのかもしれません。
忙しい毎日のなかでも、無理なく続けられることや、ふとしたきっかけで新しい体験に出会えること。そうした小さな変化の積み重ねが、これからの習い事のあり方にもつながっていきそうです。
身近な場所で、気軽に一歩を踏み出せる――そんな環境が少しずつ整ってきている今、ショッピングセンターの過ごし方も、これまでとは違った広がりを見せていくのかもしれません。