パスワード使い回しは約6割! キャッシュレス防犯意識調査で見えた“安心”への課題

買い物や送金、公共料金の支払いまで、キャッシュレス決済は日常のさまざまな場面に広がっています。スマートフォンひとつで支払いが完結する便利さは、多くの人にとって当たり前になりつつある一方で、不正利用や情報漏えいといった新たなリスクへの関心も高まっています。
今回、TISが実施した「キャッシュレス防犯意識調査」では、防犯意識そのものは高い一方で、実際の行動にはギャップがある実態が見えてきました。気をつけたいと思いながらパスワードを使い回してしまう、対策の必要性は感じつつ何をすればよいかわからない——そうした傾向は、キャッシュレスが生活インフラとして定着する今ならではの課題ともいえそうです。
さらに、「なくしたら財布よりスマホが怖い」と考える人が多数を占めた結果からは、決済の中心が変化している現在の生活者意識もうかがえます。今回の調査は、安心してキャッシュレスを使い続けるために必要な視点を、あらためて考えるきっかけを示しているようです。

約7人に1人が経験、不正利用は“他人事”ではない

調査では、クレジットカードの不正利用や詐欺など、約7人に1人が何らかのキャッシュレス被害を経験していることが示されました。自身が被害に遭ったケースだけでなく、家族や知人・友人を含めても一定数の経験があり、こうしたトラブルは決して遠い話ではないことがうかがえます。

中でも多かったのが、パスワードや暗証番号の漏えいによる不正利用でした。日常的に利用するサービスが増えるほど、認証情報の管理は重要性を増していることが見えてきます。また、フリーWi-Fi利用による情報抜き取りについては、認知が十分に広がっていない側面も確認されました。身近な決済手段になったからこそ、利便性だけでなく、どのようなリスクがあるのかを知ることも欠かせないテーマになっているようです。

危険と知りつつやめられない、パスワード使い回しの現実

今回の調査で印象的だったのが、「同じパスワードを複数サービスで使い回している」と答えた人が約6割にのぼった点です。特に10代で高い傾向が見られ、利便性を優先する意識が背景にあることも示されました。

危険性を理解していても、管理の手間や覚えやすさから同じパスワードを使ってしまう。この“わかっているけれど変えられない”という構図は、キャッシュレス利用における意識と行動のギャップを象徴しているようにも見えます。

防犯意識は「ある・ない」の二択ではなく、知識や習慣、日々の使い方の中に表れるものでもあります。調査結果は、その難しさも映し出しているようです。

生体認証だけで安心?世代差から見える防犯意識の違い

キャッシュレス決済を利用する際の防犯意識については、「気を配っている」「やや気を配っている」と答えた人が、全体として約6割が安全性を意識していることがわかりました。特に50代では74.0%と高く、年代による差も見られます。一方、「あまり気を配っていない」とした人では、「何をすればよいかわからない」が最多となっており、対策への関心というより、具体的な方法が十分浸透していない実態もうかがえます。

実際の防犯対策では、「生体認証の設定」「利用履歴の確認」「二段階認証をONにする」が上位に並び、比較的取り入れやすい対策が広がっている様子も見えてきます。あわせて見ると、防犯意識だけでなく、実践されている対策の傾向も読み取れます。

一方で、10〜30代では「防犯対策として行っていることはない」とする割合が40〜60代の約2倍にのぼる点は見逃せません。デジタルに慣れた世代でも、防犯行動につながっているとは限らないことが示されています。

こうして見ると、課題は意識の有無というより、行動に移すハードルにあるようです。基本的な設定や確認だけでもリスク低減につながることを踏まえると、利用者が無理なく実践できる環境づくりが、今後より重要になっていきそうです。

スマホは“財布以上”の存在に? 調査が映した新しい常識

財布やスマートフォンの紛失については、約3割が何らかの紛失経験があると回答しています。そして「紛失すると怖いのはスマホ」と答えた人が6割を超えた点は、今回の調査の象徴的な結果のひとつといえそうです。

その背景には、スマートフォンが決済手段であるだけでなく、個人情報、連絡手段、各種サービスの認証など、生活に必要な機能を広く担っている現状があります。単なる「持ち物」ではなく、生活基盤の一部として認識されていることがうかがえます。特に若年層でその傾向が高かった点も、スマホを中心に組み立てられた生活スタイルを反映しているようです。決済の中心が財布からスマートフォンへ移っている変化が、意識面にも表れているといえそうです。

「自分は大丈夫」が6割超、被害認識に潜む思い込み

キャッシュレス決済での詐欺や不正利用について、「自分は被害に遭いやすいとは思わない」と答えた人は65.2%にのぼり、6割以上が自分ごととしては捉えていない実態が見えてきました。特に50代では74.0%と高く、「自分だけは大丈夫」と感じる認識も少なくないようです。

一方で、「被害に遭いそう・ひっかかりそう」と感じるものとしては、「フリーWi-Fi使用による情報抜き取り被害」「クレジットカードのスキミング」「フィッシング詐欺のSMSやメール」がほぼ同率で挙がりました。身近な不安が複数並存している状況もうかがえます。

防犯対策では設定や認証に目が向きがちですが、その前提として「自分も無関係ではない」と捉える意識も重要になりそうです。

安心して使える決済に求められるものとは

では、利用者は何に「安心」を感じているのでしょうか。調査では、「生体認証や暗証番号などの認証がある決済手段・方法」が24.8%で最も高く、安心して使える決済の条件として重視されていることがわかりました。続いて「不正利用時に補償がある」が19.8%となっており、認証機能と補償の両方が安心材料として意識されているようです。

一方で、「安全だと思う決済手段はない」と考える層が一定数いることも見えてきました。特に20代では29.0%と高く、若年層ほど安心感を持ちにくい傾向もうかがえます。便利さに慣れている世代だからこそ、安全性に対する見方もシビアになっているのかもしれません。こうして見ると、利用者が求めているのは「自己責任で気をつけること」だけではなく、無理なく安全性が担保される仕組みそのものともいえそうです。認証、不正検知、補償といった設計への信頼が、今後のキャッシュレス普及を支える要素になっていくのかもしれません。


《調査概要》
調査手法:インターネット調査
調査期間:2026年2月18日(水)~2月20日(金)
調査対象者:キャッシュレス決済を利用したことがある、全国15-69歳男女 計600名

意識だけでは防げない、専門家が見る防犯対策の課題

今回の調査について、東洋大学 経済学部 国際経済学科教授の川野祐司氏は、多くの人が安全性に気を配っている一方で、行動との間にはギャップがあると指摘しています。生体認証の活用やフリーWi-Fiを避けることなどは有効な対策であり、完璧を目指すのではなく、できることから改善していく姿勢が重要だとしています。また、利用者個人の知識や努力だけで不正利用を防ぐには限界があり、企業側にも、特別な知識がなくても安心して使えるサービス設計が求められるとしています。安全性と利便性のバランスをどう取るかは、今後のキャッシュレス普及における重要なテーマになりそうです。

さらに、被害を完全に防ぐことは難しいからこそ、利用履歴の確認や異変への早期対応も重要だとし、「自分だけは大丈夫」という思い込みを避けることの必要性にも触れています。調査結果と重なる視点として、示唆のあるコメントといえそうです。


東洋大学 経済学部 国際経済学科 教授
川野 祐司 氏

1976年大分県生まれ。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、英国宝石学協会特別会員(FGA)。専門は国際金融論、ヨーロッパ経済論、金融政策、宝石学。主要著書は『これさえ読めばすべてわかる アセットマネジメントの教科書』『ルビーはなぜ赤いのか~川野教授の宝石学講座~』(いずれも文眞堂)など。

安全性は“利用者任せにしない”設計へ

TIS担当者は、キャッシュレス決済が社会インフラとして定着する中、防犯だけでなく「使いすぎへの不安」や「災害時の利用継続性」といった新たな課題も広がっているとしています。こうした日常に根ざした課題を丁寧に解決していくことが、今後利用者から選ばれるための鍵になると捉えているようです。また、認証や不正検知などのセキュリティ領域に注力し、利用者がアプリ上で決済ルールを管理できる仕組みや、AIによる不正検知など、安心して使える環境づくりを進めていることにも言及しています。

調査結果で見えてきた「意識と行動のギャップ」や、安心できる仕組みへの期待に対し、サービス提供側がどう応えていくか。その方向性を示すコメントとして位置づけられそうです。


TIS株式会社 デジタルイノベーション事業本部 ペイメントサービス事業部長
津守 諭 氏

大学卒業後、TIS株式会社に入社。決済システムの開発からスタートし、経営企画部門では中期戦略やM&Aによるアライアンス推進に従事。現在はキャッシュレスサービスの責任者として、サービス開発と社会実装を横断的に推進。ビジネスとテクノロジー、企業と生活者の橋渡し役として、現場と未来をつなぐことを大切にしている。

今回の調査では、多くの人がキャッシュレス利用に不安や防犯意識を持ちながらも、実際の行動にはばらつきがあることが見えてきました。意識はあるのに対策に踏み出せない、あるいは何をすればよいかわからない——そうしたギャップは、多くの利用者に共通する課題なのかもしれません。

その一方で、生体認証や補償といった仕組みに安心を求める声や、「財布よりスマホ」を重要と捉える意識には、キャッシュレス社会が次の段階に進んでいることもうかがえます。

便利さを支えるためには、安全性も自然に備わっていることが求められる時代です。今回の調査は、防犯を特別なものとして構えるのではなく、日々の使い方を少し見直すことから考えるきっかけを示しているようにも感じられます。安心して使えるキャッシュレス環境を考えるうえで、こうした視点は今後ますます重要になっていきそうです。